『消された一家/北九州・連続監禁殺人事件』(豊田正義)_書評という名の読書感想文
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『消された一家/北九州・連続監禁殺人事件』(豊田正義), 作家別(た行), 書評(か行), 豊田正義
『消された一家/北九州・連続監禁殺人事件』豊田 正義 新潮文庫 2023年4月15日 27刷
その男は 「天才殺人鬼」 であった。
マンションの一室に男性とその娘を監禁し、多額の金を巻き上げると同時に、通電や食事・睡眠・排泄制限などの虐待を加えた。やがて家畜のごとく、男性を衰弱死させた。その後、今度は七人家族を同じ部屋に監禁し、やはり通電やさまざまな制限を加え、奴隷のごとく扱った。
七人家族とは、その男の内縁の妻、妻の父親、母親、妹夫婦、甥、姪だった。
そして - 。
男は、家族同士の殺し合いを命じた。(「まえがき」)
![](http://choshohyo.com/wp-content/uploads/2024/06/71zzi9nnffL._AC_UL320_.jpg)
七人もの人間が次々に殺されながら、一人の少女が警察に保護されるまで、その事件は闇の中に深く沈んでいた - 。明るい人柄と巧みな弁舌で他人の家庭に入り込み、一家全員を監禁虐待によって奴隷同然にし、さらには恐怖心から家族同士を殺し合わせる。まさに鬼畜の所業を為した天才殺人鬼・松永太。人を喰らい続けた男の半生と戦慄すべき凶行の全貌を徹底取材。渾身の犯罪ノンフィクション。(新潮文庫)
すぐには信じられないでしょうが、これはまぎれもなく実際にあった事件です。その現実に、あなたは目を背けずにいられるでしょうか。知らずにいればよかったと、後悔するかも知れません。心して読んでください。そして、忘れないように。こんな人間 (鬼畜) がいたことを - 。
- 本書は、過去に例を見ない凄絶な連続殺人事件の真実を、きめ細かい取材によって浮き彫りにした類まれなドキュメンタリーである。事件の犯人である松永太が行った死体処理は、小説に描かれた内容と同様のものであった。自らはほとんど手を下さなかったとはいえ、松永は被害者の身体を細かく切り刻み、長期間煮込んだ後にミキサーにかけてからトイレなどに遺棄した。
本書によれば、現場のマンションは長く異臭が漂っていたというが、この犯行の隠蔽工作は成功し、監禁されていた少女の 「脱走」 がなければ、事件の真相はいまだに明らかにされなかったであろうし、被害者はさらに増えていただろう。
死体の処理について松永は、「私の解体方法はオリジナルです。魚料理の本を読んで応用し、つくだ煮を作る要領でやりました」 と、胸の悪くなるような話を自慢気に語った。(解説より/岩波明・精神科医、昭和大学准教授)
※文庫の解説者、精神科医の岩波明氏は、「私が専門としている精神医学の視点からみると、主犯である松永は、- 間違いなくサイコパス (精神病質) である。サイコパスとは、精神の奇形である。サイコパスは 「普通の人々」 に寄生し食らいついて侵食する。本書の中では、松永の精神の突出した 「奇形さ」 があますことなく描写されていて、じつに興味深かった。彼らは共感する能力を欠き、他人の感情や不幸に対して無情で冷笑的だ。それどころか、人を騙していたぶり、不幸のどん底に落とし込むことを喜んで行う。恐怖の叫び声をあげる被害者を前にして、サイコパスはせせら笑う。(以下略)」 と述べています。
良心の欠片もない松永の行動の目的は、常に 「自分のため」 にありました。たとえそれが内縁の妻であろうと、その肉親であろうと構うことはありません。彼が思うのは、ただ自分が如何にして生き延びるのか、そのことのみでした。他人に対する容赦は一切ありません。殺害し、跡かたもなく始末することに何の躊躇もありません。自分は決して手を出さず、言うだけ言って、後は他人にすべてを委ねます。
この本を読んでみてください係数 85/100
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◆豊田 正義
1966年東京生まれ。
早稲田大学第一文学部卒業。
作品 「オーラの素顔 美輪明宏のいきかた」「DV - 殴らずにはいられない男たち」「家庭という病巣」「壊れかけていた私から壊れそうなあなたへ」など
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