『これが私の優しさです』(谷川俊太郎)_書評という名の読書感想文

『これが私の優しさです』谷川 俊太郎 集英社文庫 1993年1月25日第一刷


これが私の優しさです―谷川俊太郎詩集 (集英社文庫)

 

1952年のデビュー作『二十億光年の孤独』を始めとして、これまでに発表された谷川俊太郎の全詩集の中から選りすぐりが集められています。日本を代表する偉大な詩人の足跡を辿るにはもってこいの本です。

かと言って、変に気合を入れることはありません。適当にページをめくり、これはと思ったものだけ読んでみるというのはどうでしょう。もし時間があって、そのときにこの詩集のことをまだあなたが憶えていたとしたら、残りはそこで読めばいいことです。

あなたの気に入る詩がひとつでもあればいいなと思いますし、その詩が掲載されている元々の詩集を読んでみたい、などと思ってもらえたら尚嬉しく思います。

表題になっている「これが私の優しさです」という一篇と、あともうひとつ「年頭の誓い」という作品を紹介したいと思います。

「これが私の優しさです」

窓の外の若葉について考えていいですか
そのむこうの青空について考えても?
永遠と虚無について考えていいですか
あなたが死にかけているときに

あなたが死にかけているときに
あなたについて考えないでいいですか
あなたから遠く遠くはなれて
生きている恋人のことを考えても?

それがあなたを考えることにつながる
とそう信じてもいいですか
それほど強くなっていいですか
あなたのおかげで

 

「年頭の誓い」

禁酒禁煙せぬことを誓う
いやな奴には悪口雑言を浴びせ
きれいな女にはふり返ることを誓う
笑うべき時に大口をあけて笑うことを誓う
夕焼けはぽかんと眺め
人だかりあればのぞきこみ
美談は泣きながら疑うことを誓う
天下国家を空論せぬこと
上手な詩を書くこと
アンケートには答えぬことを誓う
二台目のテレビを買わぬと誓う
宇宙船に乗りたがらぬと誓う
誓いを破って悔いぬことを誓う
よってくだんのごとし

解説のあとに、「鑑賞」と題したさくらももこさんの文章があります。これもためになります。ちなみに、さくらももこさんが大好きなのは、『定義』の中の「私の家への道順の推敲」という作品。彼女はこの詩を読む度に- 居ても立ってもいられぬ笑いに駈られてしまう - らしいのです。

 

この本を読んでみてください係数 85/100


これが私の優しさです―谷川俊太郎詩集 (集英社文庫)

◆谷川 俊太郎
1931年東京府東京市杉並区生まれ。詩人、翻訳家、絵本作家、脚本家。父は哲学者で法政大学総長の谷川徹三。
東京都立豊多摩高等学校卒業。

作品「二十億光年の孤独」「六十二のソネット」「日々の地図」「よしなしうた」「女に」「世間知ラズ」「シャガールと木の葉」「私」「トロムソコラージュ」他多数

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