『凶獣』(石原慎太郎)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/11 『凶獣』(石原慎太郎), 作家別(あ行), 書評(か行), 石原慎太郎

『凶獣』石原 慎太郎 幻冬舎 2017年9月20日第一刷

神はなぜこのような人間を創ったのか?

2001年6月8日、未曽有の事件は起こった。大阪府池田市の小学校に刃物を持って侵入した宅間守は逃げまどう小学1年生と2年生の児童8名を殺害、15名に重軽傷を負わせた。初公判の日、入廷してきた宅間は三度口笛を吹いたという。なぜ彼は事件を起こしたのか? 綿密な取材とインタビューで宅間の実像に迫る戦慄の記録! (幻冬舎)

もう一度書いておこう。

【附属池田小学校事件】 とは・・・・・・・ 平成13年6月8日の午前10時過ぎ頃、大阪教育大学教育学部付属池田小学校に出刃包丁を持った男1名(宅間守被告人) が自動車専用門から校内に侵入し、校舎1階にある2年生と1年生の教室等で児童や教員を襲撃。児童8名が死亡、教員を含む15名が重軽傷を負った事件。

対する、著者・石原慎太郎のコメント。

汝は何者なりや。

しかしそれにしても彼の非行の軌跡はどう眺めても異形なものだ。五歳の時、三輪車で国道の真ん中を走り出し周りの次目を集め、それ以降彼の人生の軌跡をたどると母親が彼を妊娠した時、何故かしきりにこの子供を堕したいと夫に訴えたというのは何への予感だったのだろうか。(本文から)

ネットでみると不平不満のオンパレード。内容に対する評価は思いのほか厳しい。かねてよりの石原慎太郎ファンにとっては大いに期待はずれの出来であるらしい。

文字が大きすぎてスカスカであるとか、1,500円とはどう考えても高すぎるであるとか、公判記録や取材にかかるインタビューばかりが多くを占め、創作部分がいたって少ないであるとか・・・・・・・

諸々の意見はわからぬではありません。しかし、(少なくとも)私にとってそんなことはどうでもよくて、私は石原慎太郎が好きでこの本を読みたいと思ったのではなく、偏に、「宅間守」 という男に (他にはない) 強い興味があったので読みたいと思ったまでのことです。

多くのページが割いてある創作以外の部分 - 逮捕されて以後の、臨床心理士や弁護士との面談。そこでの、宅間が語る己自身の心情など - およそ 「普通ではない」 彼の心の縺れ (それを「心」と呼ぶならばということですが) こそを知りたいと。

幼い頃から培われ醸成された 「暴力」 は、成長するにつれ、宅間にとり 「あってあたり前」 のことになっていきます。他人からの視線がことさらに気になり、そしてそれはおしなべて自分を蔑んでいるようにみえ、ならばと、先制して相手を殴りつけようとしたりします。

暴力をもってしか十分に性欲を満たすことができなくなっていた宅間は、あたり前のようにして強姦を繰り返します。意に添わないことがあると平気で暴力を振るい、訴えられそうになると母親に頼み込んでは精神病院へ逃げ込みます。

時に、自分は精神を病んでいるのだと。どれもこれもが酒浸りの父親と阿呆な母親のせいだと。父からは勘当され、頼みの母を、やがて宅間は怨むようになります。(なかなかに考えられないことですが) 生涯、宅間は4度の結婚をしています。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆石原 慎太郎
1932年兵庫県神戸市生まれ。
一橋大学法学部卒業。

作品 「太陽の季節」「「NO」と言える日本-新日米関係の方策-」「化石の森」「生還」「天才」他多数

関連記事

『検事の死命』(柚月裕子)_書評という名の読書感想文

『検事の死命』柚月 裕子 角川文庫 2019年6月5日8版 電車内で女子高生に痴漢

記事を読む

『庭』(小山田浩子)_書評という名の読書感想文

『庭』小山田 浩子 新潮文庫 2021年1月1日発行 夫。どじょう。クモ。すぐそば

記事を読む

『崖の館』(佐々木丸美)_書評という名の読書感想文

『崖の館』佐々木 丸美 創元推理文庫 2006年12月22日初版 哀しい伝説を秘めた百人浜の断崖に

記事を読む

『熊金家のひとり娘』(まさきとしか)_生きるか死ぬか。嫌な男に抱かれるか。

『熊金家のひとり娘』まさき としか 幻冬舎文庫 2019年4月10日初版 北の小さ

記事を読む

『百舌落とし』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『百舌落とし』逢坂 剛 集英社 2019年8月30日第1刷 後頭部を千枚通しで一突き

記事を読む

『虚談』(京極夏彦)_この現実はすべて虚構だ/書評という名の読書感想文

『虚談』京極 夏彦 角川文庫 2021年10月25日初版 *表紙の画をよく見てくださ

記事を読む

『不時着する流星たち』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『不時着する流星たち』小川 洋子 角川文庫 2019年6月25日初版 私はな

記事を読む

『密やかな結晶 新装版』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『密やかな結晶 新装版』小川 洋子 講談社文庫 2020年12月15日第1刷 記憶

記事を読む

『夜明けの音が聞こえる』(大泉芽衣子)_書評という名の読書感想文

『夜明けの音が聞こえる』大泉 芽衣子 集英社 2002年1月10日第一刷 何気なく書棚を眺め

記事を読む

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『買い物とわたし/お伊勢丹より愛をこめて』山内 マリコ 文春文庫 2016年3月10日第一刷

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑