『老警』(古野まほろ)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『老警』(古野まほろ), 作家別(は行), 古野まほろ, 書評(ら行)

『老警』古野 まほろ 角川文庫 2022年8月25日初版発行

:続々重版監殺』 『女警の著者、最新文庫33歳引きこもり男が起こした殺人の真相と、彼の抱いた絶望とは?

A県の小学校で起きた前代未聞の無差別大量殺人。犯行後、犯人の男は居合わせた警官から奪った拳銃で自殺する。現役警官である男の父もまた、直後に自死。県警本部は混乱の坩堝と化した。謎多きこの事件の解明に乗り出したキャリア女警の由香里は、捜査の末、驚きの真実を見つける。ベテラン警察官達の矜持と保身、引きこもりとその家族の実情 - 数々の問題提起を孕んだ社会派警察ミステリー。(角川文庫)

話の始まりからは、予想もしない展開が待ち受けています。長い人生の果てに、彼らがそうまでして護りたかったものの正体とは一体何だったのか? 何が、彼らをそこまで追い詰めたのでしょう。

『老警』 は、日本のどこにでもあるようなA県で、長期間自宅にひきこもっているある警察官の息子、伊勢鉄雄 (33歳) の近況から話が始まる。

少し長い序章ではこの鉄雄の生育歴や病歴、妄想の質、現状、わずかな生活の変化が語られる。大手出版社からデビューしたプロの作家を自任する伊勢鉄雄は、何もかもが思い通りにならないことにいらだっていた。担当編集者はつかまらず、近くの小学校は運動会の練習で騒音をまき散らす。父親が作る朝食は相変わらず母さんのようにはならない。ブチ切れて・・・・・・・捨て台詞を吐く。

「流行りの拡大自殺とか、やらかしちゃうかもだからねえ、そうだろ? 」
高卒のたたき上げである父親の伊勢鉄造 (59歳) は息子の扱いに悩んでいた。中学受験が引き金となり、母親への家庭内暴力は母を遠ざけることで収め、息子が関与したのではないかと疑える付近で起こった事件は立場をつかって “揉み消した”。正式な診断名にも耳をふさぎ、本格的な “ひきこもり” が始まった。

同時にA県警察から任命された 〈少年警察ボランティア〉 冬木雅春 (65歳) は独白する。東大法学部を卒業し “一流企業” でそれなりの地位に就いた人間が、娘の挫折で地元に戻ってこざるをえなかった。

そしてもう一人の事件の当事者、その圏内を管轄する駐在所長である津村茂警部補 (59歳) のひととなりが紹介され、市役所から津村警部補へ自傷他害の可能性のある相談者の対応が持ち込まれる。

これらの事案がひとつでも解決できていたら、A県五日市市・五日市小学校での惨劇は防げていただろう。(解説より)

その結果、A県警にとって例のない “超弩級” の事件が起こります。それは、教師、保護者、児童を含む大量の無差別殺傷事件でした。但し、この小説の行き着く先は、ここではありません。むしろ、話はここからが本番です。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆古野 まほろ
東京大学法学部卒業。リヨン第3大学法学部第3段階専攻修士課程修了。警察庁Ⅰ種警察官として交番、警察署、警察本部、海外、警察庁等で勤務の後、警察大学校主任教授にて退官。

作品 「天使のはしたなき果実」で第35回メフィスト賞を受賞しデビュー。他に 「監殺」「女警」「新任巡査」「新任刑事」「R.E.D.警察庁特殊防犯対策官室」シリーズ、他

関連記事

『異邦人(いりびと)』(原田マハ)_書評という名の読書感想文

『異邦人(いりびと)』原田 マハ PHP文芸文庫 2018年3月22日第一刷 たかむら画廊の青年専

記事を読む

『カエルの楽園』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『カエルの楽園』百田 尚樹 新潮文庫 2017年9月1日発行 平和な地を求め旅に出たアマガエルのソ

記事を読む

『路傍』(東山彰良)_書評という名の読書感想文

『路傍』東山 彰良 集英社文庫 2015年5月25日第一刷 俺、28歳。金もなけりゃ、女もいな

記事を読む

『ラスプーチンの庭/刑事犬養隼人』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ラスプーチンの庭/刑事犬養隼人』中山 七里 角川文庫 2023年8月25日初版発行

記事を読む

『連続殺人鬼カエル男ふたたび』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『連続殺人鬼カエル男ふたたび』中山 七里 宝島社文庫 2019年4月18日第1刷

記事を読む

『もう、聞こえない』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『もう、聞こえない』誉田 哲也 幻冬舎文庫 2023年10月5日 初版発行

記事を読む

『マチネの終わりに』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文

『マチネの終わりに』平野 啓一郎 朝日新聞出版 2016年4月15日第一刷 物語は、中年にさしか

記事を読む

『連鎖』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『連鎖』黒川 博行 中央公論新社 2022年11月25日初版発行 経営に行き詰った

記事を読む

『パトロネ』(藤野可織)_書評という名の読書感想文

『パトロネ』藤野 可織 集英社文庫 2013年10月25日第一刷 同じ大学に入学した妹と同居す

記事を読む

『偏愛読書館/つかみどころのない話』(林雄司)_書評という名の読書感想文

『偏愛読書館/つかみどころのない話』林 雄司 本の話WEB 2016年5月12日配信 http:/

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑