『それまでの明日』(原尞)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『それまでの明日』(原尞), 作家別(は行), 原尞, 書評(さ行)
『それまでの明日』原 尞 早川書房 2018年3月15日発行
11月初旬のある日、渡辺探偵事務所の沢崎のもとを望月皓一と名乗る紳士が訪れた。消費者金融で支店長を務める彼は、融資が内定している赤坂の料亭の女将の身辺調査を依頼し、内々のことなのでけっして会社や自宅へは連絡しないようにと言い残し去って行った。沢崎が調べると女将は六月に癌で亡くなっていた。顔立ちのよく似た妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのか、それとも妹か? しかし、当の依頼人が忽然と姿を消し、いつしか沢崎は金融絡みの事件の渦中に。切れのいい文章と機知にとんだ会話。時代がどれだけ変わろうと、この男だけは変わらない。14年もの歳月を費やして遂に完成した、チャンドラーの 『長いお別れ』 に比肩する渾身の一作。(早川書房)
驚きました。まさかと思い、記事を二度も三度も読みました。そこには、確かに「原尞」とあります。 14年ぶりの沢崎シリーズ最新作、と書いてあります。
デビュー作 『そして夜は甦る』 を初めて読んだのは、今から約30年も前のことです。沢崎のシリーズは全部読みました。
随分日が経ちましたが、その頃の衝撃はそのままに、今もはっきりと覚えています。まさかあの「沢崎」がと思い、慌てて書店へ行きました。歳こそ取ってはいるものの、西新宿のはずれのうらぶれた通りにある一画で、相も変わらず、彼は今も私立探偵をしています。
弱音を吐かず、表には出さないものの人に優しく、黙々とやるべきことをやり遂げる - 私立探偵・沢崎の魅力とは - つまりは、ハードボイルドの本質、
生き方、心の在りようのことです。
感情や状況に流されず、軟弱や妥協をひどく嫌います。タフで非情、警官ややくざをものともしません。ハードボイルドを地で行く一人の探偵の物語は、かのレイモンド・チャンドラーが生み出した名探偵、フィリップ・マーロウが登場する物語に通じています。
皆さんよくご存じの、いつかどこかで聞いたことがある、あの名セリフ -
強くなければ生きて行けない。優しくなければ生きている資格がない。 であるとか、
さよならをいうのは、少し死ぬことだ。 とか。
それによく似た彼の物語を、篤と味わってみてください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆原 尞
1946年佐賀県鳥栖市生まれ。
九州大学文学部美学美術史科卒業。
作品 「そして夜は甦る」「私が殺した少女」「天使たちの探偵」「さらば長き眠り」「愚か者死すべし」など
関連記事
-
-
『さみしくなったら名前を呼んで』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文
『さみしくなったら名前を呼んで』山内 マリコ 幻冬舎 2014年9月20日第一刷 さみしくなっ
-
-
『ざらざら』(川上弘美)_書評という名の読書感想文
『ざらざら』川上 弘美 新潮文庫 2011年3月1日発行 ざらざら (新潮文庫) &nb
-
-
『杳子・妻隠』(古井由吉)_書評という名の読書感想文
『杳子・妻隠』古井 由吉 新潮文庫 1979年12月25日発行 杳子・妻隠(つまごみ) (新潮文庫
-
-
『十二人の死にたい子どもたち』(冲方丁)_書評という名の読書感想文
『十二人の死にたい子どもたち』冲方 丁 文春文庫 2018年10月10日第一刷 十二人の死にた
-
-
『シャイロックの子供たち』(池井戸潤)_書評という名の読書感想文
『シャイロックの子供たち』池井戸 潤 文春文庫 2008年11月10日第一刷 シャイロックの子
-
-
『夜は終わらない』上下 (星野智幸)_書評という名の読書感想文
『夜は終わらない』上下 星野 智幸 講談社文庫 2018年2月15日第一刷 夜は終わらない(上
-
-
『十一月に死んだ悪魔』(愛川晶)_書評という名の読書感想文
『十一月に死んだ悪魔』愛川 晶 文春文庫 2016年11月10日第一刷 十一月に死んだ悪魔 (
-
-
『ジオラマ』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文
『ジオラマ』桐野 夏生 新潮エンタテインメント倶楽部 1998年11月20日発行 ジオラマ (
-
-
『少女奇譚/あたしたちは無敵』(朝倉かすみ)_朝倉かすみが描く少女の “リアル”
『少女奇譚/あたしたちは無敵』朝倉 かすみ 角川文庫 2019年10月25日初版 少女奇譚
-
-
『桜の首飾り』(千早茜)_書評という名の読書感想文
『桜の首飾り』千早 茜 実業之日本社文庫 2015年2月15日初版 桜の首飾り (実業之日本社