『それまでの明日』(原尞尞)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『それまでの明日』(原尞), 作家別(は行), 原尞, 書評(さ行)
『それまでの明日』原 尞 早川書房 2018年3月15日発行
11月初旬のある日、渡辺探偵事務所の沢崎のもとを望月皓一と名乗る紳士が訪れた。消費者金融で支店長を務める彼は、融資が内定している赤坂の料亭の女将の身辺調査を依頼し、内々のことなのでけっして会社や自宅へは連絡しないようにと言い残し去って行った。沢崎が調べると女将は六月に癌で亡くなっていた。顔立ちのよく似た妹が跡を継いでいるというが、調査の対象は女将なのか、それとも妹か? しかし、当の依頼人が忽然と姿を消し、いつしか沢崎は金融絡みの事件の渦中に。切れのいい文章と機知にとんだ会話。時代がどれだけ変わろうと、この男だけは変わらない。14年もの歳月を費やして遂に完成した、チャンドラーの 『長いお別れ』 に比肩する渾身の一作。(早川書房)
驚きました。まさかと思い、記事を二度も三度も読みました。そこには、確かに「原尞」とあります。 14年ぶりの沢崎シリーズ最新作、と書いてあります。
デビュー作 『そして夜は甦る』 を初めて読んだのは、今から約30年も前のことです。沢崎のシリーズは全部読みました。
随分日が経ちましたが、その頃の衝撃はそのままに、今もはっきりと覚えています。まさかあの「沢崎」がと思い、慌てて書店へ行きました。歳こそ取ってはいるものの、西新宿のはずれのうらぶれた通りにある一画で、相も変わらず、彼は今も私立探偵をしています。
弱音を吐かず、表には出さないものの人に優しく、黙々とやるべきことをやり遂げる - 私立探偵・沢崎の魅力とは - つまりは、ハードボイルドの本質、
生き方、心の在りようのことです。
感情や状況に流されず、軟弱や妥協をひどく嫌います。タフで非情、警官ややくざをものともしません。ハードボイルドを地で行く一人の探偵の物語は、かのレイモンド・チャンドラーが生み出した名探偵、フィリップ・マーロウが登場する物語に通じています。
皆さんよくご存じの、いつかどこかで聞いたことがある、あの名セリフ -
強くなければ生きて行けない。優しくなければ生きている資格がない。 であるとか、
さよならをいうのは、少し死ぬことだ。 とか。
それによく似た彼の物語を、篤と味わってみてください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆原 尞
1946年佐賀県鳥栖市生まれ。
九州大学文学部美学美術史科卒業。
作品 「そして夜は甦る」「私が殺した少女」「天使たちの探偵」「さらば長き眠り」「愚か者死すべし」など
関連記事
-
-
『珠玉の短編』(山田詠美)_書評という名の読書感想文
『珠玉の短編』山田 詠美 講談社文庫 2018年6月14日第一刷 作家・夏耳漱子は掲載誌の目次に茫
-
-
『呪文』(星野智幸)_書評という名の読書感想文
『呪文』星野 智幸 河出文庫 2018年9月20日初版 さびれゆく商店街の生き残りと再生を画策す
-
-
『幸せのプチ』(朱川湊人)_この人の本をたまに読みたくなるのはなぜなんだろう。
『幸せのプチ』朱川 湊人 文春文庫 2020年4月10日第1刷 夜中になると町を歩
-
-
『JR高田馬場駅戸山口』(柳美里)_書評という名の読書感想文
『JR高田馬場駅戸山口』柳 美里 河出文庫 2021年3月20日新装版初版 夫は単
-
-
『作家的覚書』(高村薫)_書評という名の読書感想文
『作家的覚書』高村 薫 岩波新書 2017年4月20日第一刷 「図書」誌上での好評連載を中心に編む
-
-
『小説 ドラマ恐怖新聞』(原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭)_書評という名の読書感想文
『小説 ドラマ恐怖新聞』原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭
-
-
『ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係 SIT 』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文
『ジウⅠ 警視庁特殊犯捜査係 SIT 』誉田 哲也 中公文庫 2023年7月25日 改版3刷発行
-
-
『ジェントルマン』(山田詠美)_書評という名の読書感想文
『ジェントルマン』山田 詠美 講談社文庫 2014年7月15日第一刷 第65回 野間文芸賞受賞
-
-
『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』(中山七里)_書評という名の読書感想文
『贖罪の奏鳴曲(ソナタ)』中山 七里 講談社文庫 2013年11月15日第一刷 御子柴礼司は被
-
-
『透明な迷宮』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文
『透明な迷宮』平野 啓一郎 新潮文庫 2017年1月1日発行 深夜のブタペストで監禁された初対面の