『ぼくは勉強ができない』山田詠美_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/14 『ぼくは勉強ができない』(山田詠美), 作家別(や行), 山田詠美, 書評(は行)

『ぼくは勉強ができない』 山田 詠美  新潮社 1993年3月25日発行

山田詠美の小説を大別すると、一方は 「大人の男女の恋愛や性愛」 を扱ったものであり、もう一方が、子供やいじめ、高校生の日常などを題材にした 「思春期の少年少女もの」 ということになります。

今回紹介する 『ぼくは勉強ができない』 は、言わずもがなですが、後者に属する代表的な作品で、私が最も好きな小説、一番読んで欲しいと思う一冊です。

この小説は、字面だけみると女の子と勘違いしそうな17歳の男子高校生・時田秀美君が主人公の、それはそれは痛快な青春溌剌小説です。小説は9編で構成されており、タイトルの「ぼくは勉強ができない」という物語から始まっています。

ちょっと小生意気な高校生の秀美君が、窮屈な学校生活や一見放任にみえる私生活で繰り広げる奔放さが文句なく痛快です。そこには弾けんばかりの生気が溢れ、物怖じしない若々しさが充満しています。

小説の内容はもちろんなのですが、それにも増して私が感銘を受けたのが山田詠美のあとがきです。そこには彼女がこの小説を書こうと思った理由、伝えたいと願ったメッセージが記されているのですが、それこそが素晴らしく、深い感銘を与えます。

はるか昔になった若かりし十代の物語を読んで、大人になった我々はどう感じるのか - 山田詠美はそれを知りたいと思ったと言い、これは「むしろ大人に読んで欲しい」小説であると書いています。

歳を重ね、大人になっても、ある瞬間、心が高校生の頃に戻るときがある - 誰もが経験する、その感覚こそ何より貴重で、かけがえのないものである。・・・人には決して進歩しない領域があり、その進歩しなくて良い領域を書きたかった - そう記しているのです。

「大人になるとは、進歩することよりも、むしろ進歩させるべきでない領域を知ることだ」

どうです? すでに十分大人になったみなさん。感じるところがきっとあると思うのですが・・・・・・・。

※ 追記
当時(1999年)の大学入試センターの国語の試験問題に、この小説の最終編「番外編 眠れる分度器」の一部が問題文として使用されたことを覚えている人はいるでしょうか。

この本を読んでみてください係数  90/100


◆山田詠美
1959年東京都板橋区生まれ。
明治大学日本文学科中退。
大学中退後は、アルバイトをしながら漫画家として作品を発表、その後小説家。

作品 「ベッドタイムアイズ」「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」「風葬の教室」「トラッシュ」「アニマルロジック」「A2Z」「風味絶佳」「ジェントルマン」「放課後の音符」「熱血ポンちゃんシリーズ」他多数

関連記事

『ふがいない僕は空を見た』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『ふがいない僕は空を見た』窪 美澄 新潮文庫 2012年10月1日発行 高校一年生の斉藤くんは、年

記事を読む

『ふたりの距離の概算』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『ふたりの距離の概算』米澤 穂信 角川文庫 2012年6月25日初版 春を迎え高校2年生となっ

記事を読む

『ヒポクラテスの誓い』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ヒポクラテスの誓い』中山 七里 祥伝社文庫 2016年6月20日初版第一刷 浦和医大・法医学教室

記事を読む

『王とサーカス』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『王とサーカス』米澤 穂信 創元推理文庫 2018年8月31日初版 2001年、新聞社を辞めたばか

記事を読む

『子供の領分』(吉行淳之介)_書評という名の読書感想文

『子供の領分』吉行 淳之介 番町書房 1975年12月1日初版 吉行淳之介が亡くなって、既に20

記事を読む

『風葬』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『風葬』桜木 紫乃 文春文庫 2016年12月10日第一刷 釧路で書道教室を営む夏紀は、認知症の母

記事を読む

『ひざまずいて足をお舐め』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ひざまずいて足をお舐め』山田 詠美 新潮文庫 1991年11月25日発行 SMクラブの女王様が、

記事を読む

『折れた竜骨(下)』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『折れた竜骨(下)』米澤 穂信 東京創元社 2013年7月12日初版 後半の大きな山場は、二つあ

記事を読む

『ホーンテッド・キャンパス』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『ホーンテッド・キャンパス』櫛木 理宇 角川ホラー文庫 2012年12月25日初版 八神森司は、幽

記事を読む

『ヒポクラテスの試練』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『ヒポクラテスの試練』中山 七里 祥伝社文庫 2021年12月20日初版第1刷 自

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

『燕は戻ってこない』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『燕は戻ってこない』桐野 夏生 集英社文庫 2024年3月25日 第

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑