『ぼくは勉強ができない』山田詠美_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2020/08/16
『ぼくは勉強ができない』(山田詠美), 作家別(や行), 山田詠美, 書評(は行)
『ぼくは勉強ができない』 山田 詠美 新潮社 1993年3月25日発行 @1,200
山田詠美の小説を大別すると、一方は「大人の男女の恋愛や性愛」を扱ったものであり、もう一方が、子供やいじめ、高校生の日常などを題材にした「思春期の少年少女もの」ということになります。
今回紹介する『ぼくは勉強ができない』は、言わずもがなですが、後者に属する代表的な作品で、私が最も好きな小説、一番読んで欲しいと思う一冊です。
この小説は、字面だけみると女の子と勘違いしそうな17歳の男子高校生・時田秀美君が主人公の、それはそれは痛快な青春溌剌小説です。小説は9編で構成されており、タイトルの「ぼくは勉強ができない」という物語から始まっています。
ちょっと小生意気な高校生の秀美君が、窮屈な学校生活や一見放任にみえる私生活で繰り広げる奔放さが文句なく痛快です。そこには弾けんばかりの生気が溢れ、物怖じしない若々しさが充満しています。
小説の内容はもちろんなのですが、それにも増して私が感銘を受けたのが山田詠美のあとがきです。そこには彼女がこの小説を書こうと思った理由、伝えたいと願ったメッセージが記されているのですが、それこそが素晴らしく、深い感銘を与えます。
はるか昔になった若かりし十代の物語を読んで、大人になった我々はどう感じるのか - 山田詠美はそれを知りたいと思ったと言い、これは「むしろ大人に読んで欲しい」小説であると書いています。
歳を重ね、大人になっても、ある瞬間、心が高校生の頃に戻るときがある - 誰もが経験する、その感覚こそ何より貴重で、かけがえのないものである。・・・人には決して進歩しない領域があり、その進歩しなくて良い領域を書きたかった - そう記しているのです。
「大人になるとは、進歩することよりも、むしろ進歩させるべきでない領域を知ることだ」
どうです? すでに十分大人になったみなさん。感じるところがきっとあると思うのですが・・・・・・・。
※ 追記
当時(1999年)の大学入試センターの国語の試験問題に、この小説の最終編「番外編 眠れる分度器」の一部が問題文として使用されたことを覚えている人はいるでしょうか。
この本を読んでみてください係数 90/100
◆山田詠美
1959年東京都板橋区生まれ。
明治大学日本文学科中退。
大学中退後は、アルバイトをしながら漫画家として作品を発表、その後小説家。
作品 「ベッドタイムアイズ」「ソウル・ミュージック・ラバーズ・オンリー」「風葬の教室」「トラッシュ」「アニマルロジック」「A2Z」「風味絶佳」「ジェントルマン」「放課後の音符」「熱血ポンちゃんシリーズ」他多数
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