『太陽の塔』(森見登美彦)_書評という名の読書感想文

『太陽の塔』森見 登美彦 新潮文庫 2018年6月5日27刷

太陽の塔(新潮文庫)

私の大学生活には華がない。特に女性とは絶望的に縁がない。三回生の時、水尾さんという恋人ができた。毎日が愉快だった。しかし水尾さんはあろうことか、この私を振ったのであった! クリスマスの嵐が吹き荒れる京の都、巨大な妄想力の他に何も持たぬ男が無闇に疾走する。失恋を経験したすべての男たちとこれから失恋する予定の人に捧ぐ、日本ファンタジーノベル大賞受賞作。(新潮文庫)

「太陽の塔」 とは、(言わずと知れた) 大阪府吹田市千里の万博公園内にある、あの塔のことです。初めて見た時は、衝撃でした。ただただ奇抜で、こんなのを “塔” と呼んでいいのだろうか? 小学生だった私には、ふざけて作った巨大な粘土細工のようでした。

さすがに大学生の水尾さんは違います。しかも、彼女はあの、京都大学の学生です。水尾さんは上気した顔でこう言ったのでした。「凄いです。これは宇宙遺産に指定されるべきです」 と。主人公の “私” と彼女が付き合い始め、初めて万博公園へ行った時のことです。

京都の話をしましょう。

京大前の百万遍交差点は、岐路につく車や学生で賑やかであった。北西の角にはパチンコ屋が明かるく輝いている。がらんとした百万遍の上にはぽっかりと夕空が広がる

銀閣寺道を下った疎水のわきで、我々は別れた。彼はお気に入りの自転車にまたがって颯爽と今出川通りを走って行った

北白川別当交差点では角にあるコンビニエンスストアが二十四時間光を投げ、本屋は午前三時まで立ち読み客でいっぱい、山中越えに向かう御蔭通りはへんてこな改造車がびゅうびゅう通る

今出川通りと東大路通りが交わるところが、百万遍。百万遍といえば、それはもう京都大学のことです。付近を歩いてみると、よくわかります。そこいらは、年がら年中若者だらけ。そのほとんどが、京大生なのですから。

主人公の “私” も水尾さんも、”私” の友人・飾磨大輝、高薮智尚、井戸浩平の三人も、水尾さんを巡り “私” に対しアホらしくも執拗な戦いを挑み続ける遠藤も、全員が京都大学の学生であるということを忘れてはなりません。

彼らは想像を絶する頭脳の持ち主です。但し、男女間における適切な付き合い方や絶妙な距離の取り方等についてを十二分に会得しているかというと、その限りではありません。おしなべて、初心で奥手であるわけです。

先走り、考え過ぎて墓穴を掘り、誠意は弁解と間違われ、気の利いた言葉のひとつも言えずじまいで・・・・・・・

人生、この時期の失恋ほど辛いものはありません。つらく惨めで、どうしようもない。そこは京大生といえども、(並みの人間と) 何も変わりません。

※ジュンク堂で尋ねると、どの店舗にも在庫が無いと言われました。「よければ、出版社から直接取り寄せます。但し、時間は掛かると思います」 と言われ、「では、お願いします」 と申し込むと、きっちり二週間後に連絡があり、早々に受け取りに行きました。

えらく時間がかかりました。いつ来るか、いつ来るかと連絡を待つ間に何気に思い出したのですが、ひょっとすると、私は昔この本を読んだことがあるのかも知れません。探せば本棚の奥にあったりなんかして - まま、あることではありますが。

この本を読んでみてください係数  85/100

太陽の塔(新潮文庫)

◆森見 登美彦
1979年奈良県生まれ。
京都大学農学部大学院修士課程修了。

作品 「夜は短し歩けよ乙女」「ペンギン・ハイウェイ」「四畳半神話体系」「きつねのはなし」「新釈 走れメロス 他四篇」「有頂天家族」「美女と竹林」他多数

関連記事

『ふたり狂い』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『ふたり狂い』真梨 幸子 早川書房 2011年11月15日発行 ふたり狂い (ハヤカワ文庫JA

記事を読む

『誰もいない夜に咲く』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『誰もいない夜に咲く』桜木 紫乃 角川文庫 2013年1月25日初版 誰もいない夜に咲く (角

記事を読む

『いかれころ』(三国美千子)_書評という名の読書感想文

『いかれころ』三国 美千子 新潮社 2019年6月25日発行 いかれころ 「ほんま私は

記事を読む

『ちょっと今から仕事やめてくる』(北川恵海)_書評という名の読書感想文

『ちょっと今から仕事やめてくる』北川 恵海 メディアワークス文庫 2015年2月25日初版 ちょ

記事を読む

『6月31日の同窓会』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『6月31日の同窓会』真梨 幸子 実業之日本社文庫 2019年2月15日初版 6月31日の同

記事を読む

『抱く女』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『抱く女』桐野 夏生 新潮文庫 2018年9月1日発行 抱く女 (新潮文庫) 女は男の従属物

記事を読む

『1973年のピンボール』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『1973年のピンボール』村上 春樹 講談社 1980年6月20日初版   1

記事を読む

『土の中の子供』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『土の中の子供』 中村 文則 新潮社 2005年7月30日発行 土の中の子供 (新潮文庫)

記事を読む

『妻籠め』(佐藤洋二郎)_書評という名の読書感想文

『妻籠め』佐藤 洋二郎 小学館文庫 2018年10月10日初版 妻籠め (小学館文庫) 父を

記事を読む

『終の住処』(磯崎憲一郎)_書評という名の読書感想文

『終の住処』磯崎 憲一郎 新潮社 2009年7月25日発行 終の住処 (新潮文庫) 妻はそれ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『日没』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『日没』桐野 夏生 岩波書店 2020年9月29日第1刷 日没

『小説 ドラマ恐怖新聞』(原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭)_書評という名の読書感想文

『小説 ドラマ恐怖新聞』原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ

『夜がどれほど暗くても』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『夜がどれほど暗くても』中山 七里 ハルキ文庫 2020年10月8日

『ボニン浄土』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『ボニン浄土』宇佐美 まこと 小学館 2020年6月21日初版

『向こう側の、ヨーコ』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『向こう側の、ヨーコ』真梨 幸子 光文社文庫 2020年9月20日初

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑