『推し、燃ゆ』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『推し、燃ゆ』宇佐見 りん 河出書房新社 2021年3月15日40刷発行

推し、燃ゆ

推しが、炎上した。21歳、驚異の才能、現る。

【第164回芥川賞受賞作】

誰かを応援する気持ちが、自らを奮い立たせることがある。
逃避でも依存でもない、推しは私の背骨だ。アイドル上野真幸を “解釈” することに心血を注ぐあかり。ある日突然、推しが炎上し - 。デビュー作 『かか』 は第56回文藝賞及び第33回三島由紀夫賞を受賞。21歳、圧巻の第二作。(河出書房新社)

遅まきながら、宇佐見りんの芥川賞受賞作 『推し、燃ゆ』 を読みました。『かか』 を読み、是非にも読みたいと思いながら、あっという間に一年が過ぎました。

歳が歳なだけに、耳慣れない 「推し」 という言葉とそれが意味するところに、薄っすらとした違和感がありました。私と著者の年齢にはおよそ四十年の差があります。こんな年寄りに、はたして二十歳前の少女の気持ちがわかるだろうかと。彼女の中で激しく渦巻く感情が、同じ熱量で私の心に届くのだろうかと。

いささか頼りなくもあり、(芥川賞決定にかかる) 選考委員の講評を読んでみました。九人いるメンバーのうち、二人を選んで紹介します。

◎松浦寿輝
「リズム感の良い文章を読み進めて、その救いの喪失が語られ、引退した 「推し」 の住むマンションを主人公が未練がましく見に行くあたりまで来て、不意にじわりと目頭が熱くなってしまった」 「主人公の嗜好も生活感情も世界との違和感も、ごく特殊なものでありながら、宇佐見氏の的確な筆遣いによって、どこか人間性の普遍に届いているからだろう。」

◎小川洋子
「本作に心を惹かれたのは、推しとの関係が単なる空想の世界に留まるのではなく、肉体の痛みとともに描かれている点だった。」 「DVDの中で真幸は、大人になんかなりたくないピーターパンだった。その尖った靴の先で心臓を蹴り上げられた時、まず彼女の中に飛び込んできたのは、陶酔でも衝撃でも憧れでもなく、痛みだった。」 「推しを通して自分の肉体を浄化しようともがく彼女の姿が、あまりにも切実だった。」

あかりの推しへの強い気持ちは 〈病めるときも健やかなるときも推しを推す〉、この一念に尽きるのでした。

ラジオ、テレビ、あらゆる推しの発言を聞き取り書きつけたものは、二十冊を超えるファイルに綴じられて堆積している。CDやDVDや写真集は保存用と観賞用と貸出用に常に三つ買う。放送された番組はダビングして何度も観返す。

溜まった言葉や行動は、すべて推しという人を解釈するためにあった。解釈したものを記録してブログとして公開するうち、閲覧が増え、お気に入りやコメントが増え、〈あかりさんのブログのファンです〉 と更新を待つ人すら現れた。

アイドルとのかかわり方は十人十色で、推しのすべての行動を信奉する人もいれば、善し悪しがわからないとファンとは言えないと批評する人もいる。推しを恋愛的に好きで作品には興味がない人、そういった感情はないが推しにリプライを送るなど積極的に触れ合う人、逆に作品だけが好きでスキャンダルなどに一切興味を示さない人、お金を使うことに集中する人、ファン同士の交流が好きな人。

あたしのスタンスは作品も人もまるごと解釈し続けることだった。推しの見る世界を見たかった。(本文より)

読むうち気付くのですが、高校一年生の 〈あかり〉 という少女は、どうやら軽度の発達障害であるらしい。それが何を意図し、何を示唆しているかの確かなところはわかりません。ただ、少女がそうであることを “誤解” してはならない、ということだけはわかります。

「推し」 を推すという行為 - その先に、彼女は何を観ていたのでしょう。あかりが生きるすべての理由であり救いであった推しが、やがて 「推し」 でなくなる日がやってきます。そのとき彼女は、何をもって世界と対峙するのでしょう。

かか

この本を読んでみてください係数  80/100

◆宇佐見 りん
1999年静岡県生まれ、神奈川県育ち。
慶應義塾大学文学部国文科の学生。現在2年生。

作品 2019年、『かか』 で第56回文藝賞受賞。第33回三島由紀夫賞を史上最年少で受賞。本作が第二作。

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