『アンソーシャル ディスタンス』(金原ひとみ)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
『アンソーシャル ディスタンス』(金原ひとみ), 作家別(か行), 書評(あ行), 金原ひとみ
『アンソーシャル ディスタンス』金原 ひとみ 新潮文庫 2024年2月1日 発行
すぐに全編を一気読みした私は、これぞ金原ひとみ、ありがとう金原ひとみ、いつも心に金原ひとみ、と万歳三唱せんばかりの高揚感を抱いた。本書は、著者の作品を愛する読者の方々には勿論胸を張って差し出したいし、著者の作品が初めての方、購入を迷われている方にはそれ以上の自信を持って推薦したい一冊なのだ。(作家・朝井リョウ/解説より)

整形、不倫、ストロングゼロ・・・・・・・ 絶望に溺れ、必死にもがく女性たちを鮮烈に描く短編集 谷崎潤一郎賞受賞作
心を病んだ恋人との生活に耐えきれず、ストロングゼロに頼る女。年下彼氏の若さに当てられ、整形へ走る女。夫からの逃げ道だった、不倫相手に振り回される女。推しのライブ中止で心折れ、彼氏を心中に誘う女。恋人と会えない孤独な日々で、性欲や激辛欲が荒ぶる女 - 。絶望に溺れて摑んだものが間違っていたとしても、それは、今を生き抜くための希望だった。女性たちの疾走を描く鮮烈な五編。(新潮文庫)
2020年に始まり、未だ完全な終息には至らないコロナ禍にあって、人の暮らしはどんな変化を遂げたのでしょう。自粛自粛の毎日で、出口が見えない中、何を頼りに、何に縋って人は生きられるのか。リアルな生を実感できるのか。絶望まみれの五編を読んで、そんなことを考えました。
【目次】
・ストロングゼロ Strong Zero
・デバッガー Debugger
・コンスキエンティア Conscientia
・アンソーシャル ディスタンス Unsocial Distance
・テクノブレイク Technobreak
同棲中の恋人の精神的不調がトリガーとなり、高アルコール飲料に溺れていく主人公の姿を描いた 「ストロングゼロ」。
職場の後輩から好意を寄せられたことで、自身の外見に対するコンプレックスの解像度が上がり続けプチ整形をやめられなくなる 「デバッガー」。
コミュニケーション不全が続く夫から逃げるように複数の男と不倫をするが、誰を相手にしても自分の中の空洞ばかりが拡張していく 「コンスキエンティア」。
生きる希望だったライブが新型コロナウイルスの影響により中止に。絶望した若い男女が心中を目的とした旅に出る 「アンソーシャル ディスタンス」。
未知のウイルスへの恐怖と位置情報共有アプリがもたらす逆説的な孤独、そして迸る性欲と激辛料理への欲求が結集し一気に爆発する 「テクノブレイク」。
短い文章でまとめたところでこの小説の魅力は殆ど伝えられていないだろう。私にとって著者の小説の魅力のひとつは、あらすじでは伝えられない部分、つまり文体そのものにある。脳内を疾走する言葉を速度もそのままに完全再現したようなドライブ感のある文体は、他に類を見ない唯一無二のものだ。そしてそれは、本書でも採用されている徹底した一人称視点から生まれていると推測する。(解説より)
※折りにふれ描かれる、微に入り細を穿つ性描写は、他の追随を許しません。それは卑猥や露悪を超えて、生きる証を求めるための、あるべき真っ当な営みであるように映ります。その一々に互いの思いがせめぎ合うようで、強く心に迫ります。
参考:Debuggerとは、バグと呼ばれる、コンピューターにおけるプログラムやソフトウェアの誤りや不具合 (エラー) を発見・修正するソフトウェアのこと。Conscientiaは、“良心“ です。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆金原 ひとみ
1983年東京都生まれ。パリ在住。文化学院高等課程中退。小学4年生で不登校になり、中学、高校にはほとんど通っていない。小学6年のとき、父親の留学に伴い、1年間サンフランシスコで暮らす。
作品 「蛇にピアス」「アッシュベイビー」「AMEBIC アミービック」「オートフィクション」「ハイドラ」「星へ落ちる」「TRIP TRAP」「マザーズ」「憂鬱たち」他多数
関連記事
-
-
『青が破れる』(町屋良平)_書評という名の読書感想文
『青が破れる』町屋 良平 河出書房新社 2016年11月30日初版 この冬、彼女が死んで、友達が死
-
-
『陽だまりの彼女』(越谷オサム)_書評という名の読書感想文
『陽だまりの彼女』越谷 オサム 新潮文庫 2011年6月1日発行 幼馴染みと十年ぶりに再会した僕。
-
-
『生きる』(乙川優三郎)_書評という名の読書感想文
『生きる』乙川 優三郎 文春文庫 2005年1月10日第一刷 亡き藩主への忠誠を示す「追腹」を禁じ
-
-
『感染領域』(くろきすがや)_書評という名の読書感想文
『感染領域』くろき すがや 宝島社文庫 2018年2月20日第一刷 第16回 『このミステリーが
-
-
『田舎でロックンロール』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文
『田舎でロックンロール』奥田 英朗 角川書店 2014年10月30日初版 これは小説ではありませ
-
-
『Yuming Tribute Stories』(桐野夏生、綿矢りさ他)_書評という名の読書感想文
『Yuming Tribute Stories』桐野夏生、綿矢りさ他 新潮文庫 2022年7月25
-
-
『肉弾』(河﨑秋子)_書評という名の読書感想文
『肉弾』河﨑 秋子 角川文庫 2020年6月25日初版 大学を休学中の貴美也は、父
-
-
『わたしの本の空白は』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文
『わたしの本の空白は』近藤 史恵 ハルキ文庫 2021年7月18日第1刷 気づいた
-
-
『朝が来るまでそばにいる』(彩瀬まる)_書評という名の読書感想文
『朝が来るまでそばにいる』彩瀬 まる 新潮文庫 2019年9月1日発行 火葬したは
-
-
『夫の骨』(矢樹純)_書評という名の読書感想文
『夫の骨』矢樹 純 祥伝社文庫 2019年4月20日初版 昨年、夫の孝之が事故死し
















