『存在のすべてを』(塩田武士)_書評という名の読書感想文

『存在のすべてを』塩田 武士 朝日新聞出版 2024年2月15日第5刷発行

本の雑誌が選ぶ2023年度ベスト10 第1位 「事実の先に霧笛のように響く真実 がある。圧倒的な終着に胸が震え、しばし言葉を失った稲泉連 (ノンフィクション作家)

前代未聞二児同時誘拐の真相に至る虚実の迷宮 ! 真実を追求する記者、現実を描写する画家。質感なき時代にを見つめる者たち - 著者渾身の到達点、圧巻の結末に心打たれる最新作。

平成3 (1991) 年に神奈川県下で発生した 「二児同時誘拐事件」 から30年。当時警察担当だった大日新聞記者の門田は、令和3 (2021) 年の旧知の刑事の死をきっかけに、誘拐事件の被害男児の 「今」 を知る。彼は気鋭の画家・如月脩として脚光を浴びていたが、本事件最大の謎である 「空白の三年」 については固く口を閉ざしていた。異様な展開を辿った事件の真実を求め、地を這うような取材を重ねた結果、ある写実画家の存在に行き当たるが - 。「週刊朝日」 最後の連載にして、『罪の声』 に並び立つ新たなる代表作。(朝日新聞出版公式サイトより)

この本は (角田光代の) 『八日目の蝉』 を思い起こさせた、という記事がありました。「えっ? そっちかよ」 というのが読んだ素直な感想で、むしろ私は (横山秀夫の) 『64 ロクヨン)』 ではないのかと。読むとすぐにそんな感じを受けました。

但し、言いたいのはそんなことではありません。どちらも名作中の名作であることには違いなく、つまりは、この作品がそれほどに過去の傑作に近しい密度の内容であるということ。粘り強さと諦めない姿勢、真実に至るまでにかかる膨大な時間と労力は、並大抵のものではありません。

この物語の主人公・門田次郎 (もんでん・じろう) をあれほどまでに突き動かしたのは、いったい何だったのでしょう。その答えに辿り着くには、並々ならぬ覚悟が必要で、しかし彼は諦めません。門田には、途中で投げ出すわけにはいかない、理由がありました。

それらは、過ぎ去った過去を惜しむように、いま在る自分を慈しむように、なされた旅でした。 訪ねた先は、事件現場になった横浜はもちろんのこと、北海道から滋賀、さらに北九州にまで及びます。舞台は、

横浜 元町 横浜 港の見える丘公園 横浜港 シンボルタワー 滋賀 高島・海津 北九州 黒崎・門司 北海道 伊達紋別・有珠山SA 北海道 羊蹄山・ふきだし公園 北海道 野田弘志氏アトリエ 北海道 洞爺湖・小樽

と、実に広範囲にわたっています。そして、驚くべきは、それらはそっくりそのまま著者の取材先と重なっているということ。この一作にかけたその熱量を思うと、気が遠くなり、言うべき言葉が見つかりません。ぜひにも読んでほしいと思う一冊です。

この本を読んでみてください係数 85/100

◆塩田 武士
1979年兵庫県生まれ。
関西学院大学社会学部卒業。

作品 「盤上のアルファ」「女神のタクト」「崩壊」「拳に聞け! 」「罪の声」「歪んだ波紋」「朱色の化身」他多数

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