『いやしい鳥』(藤野可織)_書評という名の読書感想文
公開日:
:
最終更新日:2024/01/10
『いやしい鳥』(藤野可織), 作家別(は行), 書評(あ行), 藤野可織
『いやしい鳥』藤野 可織 河出文庫 2018年12月20日初版

ピッピは死んだ。いや殺された。いや・・・・・・・だんだんと鳥に変身していく男と、その男に復讐を誓う 「俺」 の惨劇を描く表題作、幼い頃に母親を “恐竜に” 喰われたトラウマをめぐる 「溶けない」、あまりにも凶暴なその花 「胡蝶蘭」・・・・・・・グロテスクで残酷で、おかしな愛と奇想に満ちた、芥川賞作家の原点にして珠玉の作品集。(河出文庫)
(第103回) 文學界新人賞受賞作
藤野可織のデビュー作 「いやしい鳥」 を読みました。70ページ余りの作品で、わき目もふらず一気に読みました。
ただ、何が為にこんな話を書いたのか - それはわかりません。そのころ著者に何があったのか。それが知りたいと思います。
知らずに読むと、これが二十歳半ばの女性が書いたものとはとても思えません。
それはK町のある安い居酒屋での出来事で、「俺」 はその男を、たまたま善意で助けただけだったのです。
飲み過ぎて正体を失くしたアカの他人のトリウチを、介抱し、タクシーに乗せ、自分の家に連れて帰ったまではよかったものの、トリウチは朝になってもまるで帰ろうとしません。
家に居ついたあげく、「俺」 がほんの少し家を空けた隙に、あろうことかトリウチは、妻とは離婚し、独り暮らしの 「俺」 が何より大事にしていたオカメインコのピッピを、
生きた鳥を、人の家で飼われている鳥を、「うまそうだったからつい」 と、そのまま生で 「かぶりついた」 のでした。そしてそのうちトリウチは、次第次第に鳥へと変化していきます。顔から羽根が生え、見るとそれはピッピの羽根で、羽根はやがて全身へと及んでいきます。
時の状況は以下のようなものです。
・・・・・・・ トリウチの顔からは次々に羽根が湧いて出て、それどころか出てくる量はどんどん増えるし、あっという間にあいつの人間らしい皮膚の部分は、見るのも難しいくらいになってきた。というより、あいつの顔がピッピそのものになってきた。
顎が羽毛に消え、次いで喉仏が消え、鎖骨が消え、Tシャツの上に出てる部分はすべて鳥のものになった。頭髪は冠羽に変わってた。黄色い羽毛がしゅっと立った。上唇はきゅうと前にせり出し、みるみる角質化してくちばしに、頭の形そのものも人間のものではなくなってた。目が前じゃなくて横にずずずっとずれてまん丸に見開き、俺を見上げた。(中略)
トリウチはまっすぐに立って俺を見た。まっすぐに。でもそれじゃ見えなかったみたいで、あいつ、首をかくっと傾けて真横についてる目を俺に向けた。その仕草はピッピそっくりだった。
そのときぽんと頬にオレンジ色の丸が浮き出た。それでもう完璧に奴の頭部はルチノー系のオカメインコだった。(P55.56)
ほぼオカメインコと化したトリウチは、次に、「俺」 に狙いを定めます。今度は、「俺」 を喰おうと企んでいます。
※結局のところ、何が言いたいのかはわかりません。ただ、「俺」 が縷々語る半ば言い訳じみた己の心情は妙にリアルで、おかしみがあり、捨て鉢の狂気に満ち充ちて、やけに面白いのでした。
この本を読んでみてください係数 85/100

◆藤野 可織
1980年京都府京都市生まれ。
同志社大学大学院美学および芸術学専攻博士課程前期修了。
作品 「爪と目」「おはなしして子ちゃん」「ファイナルガール」「ドレス」など
関連記事
-
-
『1ミリの後悔もない、はずがない』(一木けい)_書評という名の読書感想文
『1ミリの後悔もない、はずがない』一木 けい 新潮文庫 2020年6月1日発行 「
-
-
『幾千の夜、昨日の月』(角田光代)_書評という名の読書感想文
『幾千の夜、昨日の月』角田 光代 角川文庫 2015年1月25日初版 新聞で文庫の新刊が出る
-
-
『田舎の紳士服店のモデルの妻』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文
『田舎の紳士服店のモデルの妻』宮下 奈都 文春文庫 2013年6月10日第一刷 東京から夫の故郷に
-
-
『整形美女』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文
『整形美女』姫野 カオルコ 光文社文庫 2015年5月20日初版 二十歳の繭村甲斐子は、大きな瞳と
-
-
『愛すること、理解すること、愛されること』(李龍徳)_書評という名の読書感想文
『愛すること、理解すること、愛されること』李 龍徳 河出書房新社 2018年8月30日初版 謎の死
-
-
『永遠の1/2 』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文
『永遠の1/2 』佐藤 正午 小学館文庫 2016年10月11日初版 失業したとたんにツキがまわっ
-
-
『平成くん、さようなら』(古市憲寿)_書評という名の読書感想文
『平成くん、さようなら』古市 憲寿 文春文庫 2021年5月10日第1刷 安楽死が
-
-
『心淋し川』(西條奈加)_書評という名の読書感想文
『心淋し川』西條 奈加 集英社文庫 2023年9月25日 第1刷 「誰の心にも淀み
-
-
『イノセント・デイズ』(早見和真)_書評という名の読書感想文
『イノセント・デイズ』早見 和真 新潮文庫 2017年3月1日発行 田中幸乃、30歳。元恋人の家に
-
-
『赤頭巾ちゃん気をつけて』(庄司薫)_書評という名の読書感想文
『赤頭巾ちゃん気をつけて』庄司 薫 中公文庫 1995年11月18日初版 女の子にもマケズ、ゲバル
















