『強欲な羊』(美輪和音)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/06 『強欲な羊』(美輪和音), 作家別(ま行), 書評(か行), 美輪和音

『強欲な羊』美輪 和音 創元推理文庫 2020年4月17日7刷

第7回ミステリーズ! 新人賞受賞作 圧倒的イヤミス体験 私って少しだけ欲張りかしら・・・・・・・?

美しい姉妹が暮らすとある屋敷にやってきた 「わたくし」 が見たのは、対照的な性格の二人の間に起きた陰湿で邪悪な事件の数々。年々エスカレートし、ついには妹が姉を殺害してしまうが - 。その物語を滔々と語る 「わたくし」 の驚きの真意とは? 圧倒的な筆力で第7回ミステリーズ! 新人賞を受賞した 「強欲な羊」 に始まる “羊” たちの饗宴。企みと悪意に満ちた、五編収録の連作集。(創元推理文庫)

【目次】
強欲な羊
背徳の羊
眠れぬ夜の羊
ストックホルムの羊
生贄の羊

「強欲な羊」 は、とある屋敷で暮らす美しき姉妹のもとにやってきた 「わたくし」 の独白形式で語られていきます。気性が激しく独占欲が強い麻耶子と可憐で儚げな心優しい沙那子。二人が暮らす屋敷の中で起こる陰惨で邪悪な事件の数々。不穏な空気を予感させる冒頭に徐々に不協和音を被せていく、粘り着いたような筆致に引き込まれて、気がつけば息を止めながら文字を追ってしまいます。誰が羊で誰が狼なのか。読んでいくとなんとなく分かりそうなものですが、それが大いなる油断であったことを読後思い知ることになるでしょう。

本作はホラーというよりイヤミスの色合いが濃いと思われます。イヤミスとは 「読んだら嫌な気分になれる後味の悪いミステリ」 のことで近年活況といえるジャンルです。有名なところでは 『告白』(湊かなえ)、『ユリゴコロ』(沼田まほかる)、『殺人鬼フジコの衝動』(真梨幸子) などがそうでしょう。(後略)

しかし嫌な気分になって終わりでは優れたイヤミスとはいえません。やはり前述した作品はいずれも秀逸な謎解きやサプライズが盛り込まれています。もちろん我らが強欲な羊 も例外ではありません。イヤミスでは登場人物の狂気や愛憎、殺意といったダークサイドが、舐めてかかった読者に手痛いしっぺ返しを食らわせる伏線や小道具になります。

特に本作は登場人物の台詞や行動を注意深く読んでいくことをおすすめします。そして安易に信じたり決めつけたりしないことです。文中に仕込まれたトラップに気づいても油断は禁物です。そのトラップを避けた先に思いも寄らない別のトラップが仕掛けられているかもしれません。(七尾与史/解説より)

※これと “空気” がよく似た作品を、昔どこかで読んだことがあるような。(私には、ということですが) 少し懐かしい感じがします。

平均的な文庫と比べると、行間が狭く、文字はやや小さめで、ページ毎に文字がぎっしり詰まっています。読むのにちょっと苦労するかもしれません。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆美輪 和音
1966年東京都生まれ。
青山学院大学文学部卒業。

作品 大良美波子名義でテレビドラマ 「美少女H」 や、映画 「着信アリ」 などの脚本を手がける。2010年 「強欲な羊」 で第7回ミステリーズ! 新人賞を受賞し、小説家デビュー。

関連記事

『仮面病棟』(知念実希人)_書評という名の読書感想文

『仮面病棟』知念 実希人 実業之日本社文庫 2014年12月15日初版 強盗犯により密室と化す病院

記事を読む

『凶宅』(三津田信三)_書評という名の読書感想文

『凶宅』三津田 信三 角川ホラー文庫 2017年11月25日初版 山の中腹に建つ家に引っ越してきた

記事を読む

『カエルの楽園 2020』(百田尚樹)_書評という名の読書感想文

『カエルの楽園 2020』百田 尚樹 新潮文庫 2020年6月10日発行 コロナ禍

記事を読む

『静かな雨』(宮下奈都)_書評という名の読書感想文

『静かな雨』宮下 奈都 文春文庫 2019年6月10日第1刷 行助は美味しいたいや

記事を読む

『きのうの神さま』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『きのうの神さま』西川 美和 ポプラ文庫 2012年8月5日初版 ポプラ社の解説を借りると、『ゆ

記事を読む

『葦の浮船 新装版』(松本清張)_書評という名の読書感想文

『葦の浮船 新装版』松本 清張 角川文庫 2021年6月25日改版初版発行 期待して

記事を読む

『きみの町で』(重松清)_書評という名の読書感想文

『きみの町で』重松 清 新潮文庫 2019年7月1日発行 あの町と、この町、あの時

記事を読む

『業苦 忌まわ昔 (弐)』(岩井志麻子)_書評という名の読書感想文

『業苦 忌まわ昔 (弐)』岩井 志麻子 角川ホラー文庫 2020年6月25日初版

記事を読む

『回転木馬のデッド・ヒート』(村上春樹)_書評という名の読書感想文

『回転木馬のデッド・ヒート』村上 春樹 講談社 1985年10月15日第一刷 村上春樹が30

記事を読む

『家族じまい』(桜木紫乃)_書評という名の読書感想文

『家族じまい』桜木 紫乃 集英社 2020年11月11日第6刷 家族はいったいいつ

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑