『希望が死んだ夜に』(天祢涼)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『希望が死んだ夜に』(天祢涼), 作家別(あ行), 天祢涼, 書評(か行)

『希望が死んだ夜に』天祢 涼 文春文庫 2023年9月1日第7刷

あの子の殺人計画と読むと、一層切ない。社会派ミステリー・仲田蛍シリーズ クラスの人気者だった彼女は、なぜ殺されたのか。子どもの貧困をテーマにした衝撃作

神奈川県川崎市で、14歳の女子中学生・冬野ネガが、同級生の春日井のぞみを殺害した容疑で逮捕された。少女は犯行を認めたが、その動機は一切語らない。何故、のぞみは殺されたのか? 二人の刑事が捜査を開始すると、意外な事実が浮かび上がって - 。現代社会が抱える闇を描いた、社会派青春ミステリー。解説・細谷正充 (文春文庫)

幼い頃 「家が貧乏だった」 惨めさは、そうではなかった人たちに、おそらくわからないだろうと思います。日々の暮らしにあって、蔑まれているであろう屈辱を、未来が見えない絶望を、そうではなかったあなたに、わかるはずがありません。その頃ネガは14歳。自分の不幸にさえ、半ば無自覚でいます。

神奈川県警刑事部捜査一課の真壁巧は、川崎市で起きた少年犯罪を担当することになった。川崎市立登戸中学二年三組の冬野ネガが、クラスメイトの春日井のぞみを殺し、自殺に見せかけようとしていたところを警官に発見され、逮捕されたのだ。

取り調べでのぞみを殺したことを認めたネガだが、詳しい事情や動機を話そうとはしない。いわゆる “半落ち“ である。有能だが評判のよくない多摩署の生活安全課少年係の仲田蛍と組まされた真壁。出世欲の強い彼は、上司の顔色を窺いながら、真実を追うことになる。

という刑事コンビの調査が描かれる一方で、ネガ視点の物語が展開する。虐待やDVを受けたためにパニック障害を抱える母親と暮らすネガ。貧困家庭の生活にモヤモヤしたものを抱えながら、なんとか生きていた。

幼馴染で同級生の長谷部友輔は、ネガのことを気にかけているが、彼の母親の翼が貧困問題を扱う人気フリーライターになってから、距離を置いている。同じクラスにお嬢様のような春日井のぞみがいるが、別世界の住人だと思っている。

しかしあることが切っかけになり、ネガはのぞみと親しくなった。その先に、どのような悲劇があるかを、知らないままに - 。(解説より)

冬野ネガ以外にも、この物語には “貧困“ に絡む人物が複数人登場します。例えば、「母親がフリーライターとして成功したことで、貧困家庭から抜け出せた長谷部友輔。ネガが凛子姉ちゃんと慕っていた青谷凛子の姿。やはり貧しい家庭で育ち、努力によって神奈川県警の捜査一課の刑事にまでなった真壁巧。」 (同解説) など。

彼ら一人一人の事情を考えるとき、“貧困“ のもたらす残酷さ、その傷痕の果てしなさを、改めて思い知ることになります。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆天祢 涼
1978年生まれ。

作品 「キョウカンカク」「葬式組曲」「父の葬式」「境内ではお静かに」シリーズ「謎解き広報課」「彼女が花を咲かすとき」他

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