『あの子の殺人計画』(天祢涼)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『あの子の殺人計画』(天祢涼), 作家別(あ行), 天祢涼, 書評(あ行)

『あの子の殺人計画』天祢 涼 文春文庫 2023年9月10日 第1刷

社会派ミステリー・仲田シリーズ 第2弾 母を慕う気持ちが、憎しみに変わる・・・・・・・。少女の想いに胸が引き裂かれる、シリーズ屈指の傑作 第3回細谷賞選出

お母さんを殺せば、他の家の子になれる? 」 その殺人計画 はあまりに切実で、苦しい。

椎名きさらは小学五年生。母子家庭で窮乏している上に親から 〈水責めの刑〉 で厳しく躾けられていた。ある時、保健室の遊馬先生や転校生の翔太らに指摘され、自分が虐待されているのではないかと気づき始める・・・・・・・。

一方、JR川崎駅近くの路上で、大手風俗店のオーナー・遠山が刺し殺された。県警本部捜査一課の真壁は所轄の捜査員・宝生と組んで聞き込みに当たり、かつて遠山の店で働いていた椎名綺羅に疑念を抱く。だが事件当夜、彼女は娘のきさらと一緒に自宅にいたというアリバイがあった。真壁は生活安全課に所属しながら数々の事件を解決に導いた女性捜査員・仲田蛍の力を借りて、椎名母娘の実像に迫る。

前作 『希望が死んだ夜に』 の 「こどもの貧困」 に続き、「こどもの虐待」 をテーマに 〈仲田・真壁コンビ〉 の活躍を描く社会派と本格が融合した傑作ミステリー。(文芸春秋BOOKSより)

なんで、あの子ばっかり」 その瞬間、椎名の顔つきが変わる。現れたのは、紛れもなく十七年前の、宝生が幾度となく再会を夢見た少女の顔だった。少女と化した椎名は、双眸から大粒の涙をぽろぽろこぼして声を震わせる。

ダ・ヴィンチ先生みたいにお母さんが絵をほめてくれればよかった。小芝なんていなくて若田部先生があたしのことをもっと見てくれればよかった。遊馬先生が産休に入らなければよかった。代わりの保健室の先生がまともならよかった。遠山になんて出会わなければよかった。翔太がずっと傍にいてくれればよかった!

きさらは十歳。まだ小学五年生の少女です。

母が一人で、家が貧しいのはわかります。ほかの同級生みたいに、服や靴が買ってはもらえないのは承知しています。ケーキを買ってする誕生日のお祝いなど、したことがありません。時々、母は怒って食事を抜くことがあります。そんなときは、牛乳を飲んで我慢します。

亡くなる時、父はきさらに 「母を支えてあげてくれ」 と繰り返し言ったのでした。きさらは、その約束を忘れることがありません。たとえ母がするのが虐待や育児放棄だったとしても、幼い彼女に、それの何が理解できたでしょう。きさらはただただ母に従順であろうと、それだけを願っています。

この本を読んでみてください係数  80/100

◆天祢 涼
1978年生まれ。

作品 「キョウカンカク」「葬式組曲」「父の葬式」「境内ではお静かに」シリーズ「謎解き広報課」「彼女が花を咲かすとき」「希望が死んだ夜に」他

関連記事

『朝が来る』(辻村深月)_書評という名の読書感想文

『朝が来る』辻村 深月 文春文庫 2018年9月10日第一刷 長く辛い不妊治療の末

記事を読む

『あなたの不幸は蜜の味』(辻村深月ほか)_書評という名の読書感想文

『あなたの不幸は蜜の味』辻村深月ほか PHP文芸文庫 2019年7月19日第1版

記事を読む

『愚者の毒』(宇佐美まこと)_書評という名の読書感想文

『愚者の毒』宇佐美 まこと 祥伝社文庫 2017年9月10日第4刷 1985年、上

記事を読む

『マッチング』(内田英治)_書評という名の読書感想文

『マッチング』内田 英治 角川ホラー文庫 2024年2月20日 3版発行 2024年2月23

記事を読む

『あおい』(西加奈子)_書評という名の読書感想文

『あおい』西 加奈子 小学館文庫 2007年6月11日初版 西加奈子のデビュー作です。「あお

記事を読む

『鯖』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『鯖』赤松 利市 徳間書店 2018年7月31日初刷 読めば、地獄。狂気。そして、破滅。気持ち良

記事を読む

『宇喜多の捨て嫁』(木下昌輝)_書評という名の読書感想文

『宇喜多の捨て嫁』木下 昌輝 文春文庫 2017年4月10日第一刷 第一話  表題作より 「碁

記事を読む

『愛がなんだ』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『愛がなんだ』角田 光代 角川 文庫 2018年7月30日13版 「私はただ、ずっと彼のそばにはり

記事を読む

『楽園の真下』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『楽園の真下』荻原 浩 文春文庫 2022年4月10日第1刷 「日本でいちばん天国

記事を読む

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日 第1刷発行 孤立した無菌

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』(清武英利)_書評という名の読書感想文

『アトムの心臓 「ディア・ファミリー」 23年間の記録』清武 英利 

『メイド・イン京都』(藤岡陽子)_書評という名の読書感想文

『メイド・イン京都』藤岡 陽子 朝日文庫 2024年4月30日 第1

『あいにくあんたのためじゃない』(柚木麻子)_書評という名の読書感想文

『あいにくあんたのためじゃない』柚木 麻子 新潮社 2024年3月2

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑