『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』(桜木 紫乃)_書評という名の読書感想文

『俺と師匠とブルーボーイとストリッパー』桜木 紫乃 角川文庫 2023年12月25日 初版発行

著者史上一番笑って泣ける新たな “家族“ 小説

舞台で出会った4人の共同生活。親との縁を捨てた青年が淋しさという感情を思い出す - 。あの冬の1か月、たしかに僕らは家族だった。

「あんた、葬式来る? 」 博打うちだった父の訃報を聞いても、キャバレーで下働きをする章介の水草のような生活は何も変わらなかった。しかしこの年末は、3人の芸人が1か月共に寮で暮らすという。手品ができないマジシャンに女言葉の男性歌手、年齢不詳の踊り子。苦労の多い人生を送りながらも毎夜フロアを沸かせる3人に囲まれ、やがて章介は人を慕う気持ちを思い出していく - 。1人の青年の人生が変わる、笑って泣ける “家族“ 小説。(角川文庫)

昭和感満載の “疑似家族“ 物語。キャバレーに訪れた演者三人は早々に、客だけではなく店のホステスまでをも魅了します。三人は、ポンコツと見せかけて、実はポンコツでもなんでもありません。年季の入った芸があり、金を払うに十分な経験があります。真にポンコツなのは、章介だけでした。

主人公は、北海道のキャバレー 「パラダイス」 で下働きをしている二十歳の章介。ひょんなことから章介は、年末年始のショーのために来道した出演者三人とキャバレーの寮で同居生活を送ることに。三人の演者とは 「世界的有名マジシャン」 チャーリー片西、「シャンソン界の大御所」 ソコ・シャネル、「今世紀最大級の踊り子」 フラワーひとみ。しかし、その華麗な触れ込みとは裏腹に、彼らのステージはハプニングの連続だった。

たとえば、チャーリー片西こと “師匠“ は、颯爽と登場したとたん上着の裾からドサっと何かを落とす。それはマジックで使うはずの白い鳩だった。結局 “師匠“ はすべてのマジックを失敗してステージを降りるが、一転、マイクを握ると 「歌は世に連れ世は歌に連れ、流れ流れるこの世には浮世と名付けた川がある・・・・・・・」 と、見事な歌紹介を披露したりもする。(以下略)

ひと月足らずの共同生活を通して、しだいに打ち解け、家族のような不思議な関係を築いていく四人。ユーモアや哀歓とともに若き章介の変化と成長が描かれていくところも味わい深い。

「貧乏とか苦労は、深刻に描こうと思えばいくらでも深刻にできるけど、今回はあえて深刻にしない筆の進め方がよいかなと。書いている間の私の楽しさが、みなさんに伝わるといいですね」 (これは著者のことば。オール讀物 「本の話」 より)

※中で突出しているのが、大男で歌が上手くて客との絡みが絶妙な、ブルーボーイでシャンソン歌手のソコ・シャネル。「ココ」 ではなくて 「ソコ」・・・・・・・ではありません。「ソコ」 と名乗る、深いわけがあります。彼は (彼女は) 若い章介が大好きで、ズボラな章介を放っておくことができません。日頃の粗野な言動と彼に向けた献身的な姿勢の間にあるギャップがたまりません。

この本を読んでみてください係数  85/100

◆桜木 紫乃
1965年北海道釧路市生まれ。
高校卒業後裁判所のタイピストとして勤務。

作品 「起終点駅/ターミナル」「凍原」「氷平線」「ラブレス」「ホテルローヤル」「硝子の葦」「星々たち」「ブルース」「霧/ウラル」「砂上」「家族じまい」他多数

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