『スリーピング・ブッダ』(早見和真)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/12 『スリーピング・ブッダ』(早見和真), 作家別(は行), 早見和真, 書評(さ行)

『スリーピング・ブッダ』早見 和真 角川文庫 2014年8月25日初版

敬千宗の大本山・長穏寺に2人の若き僧侶が上山した。北陸の古寺の跡取り、小平広也。バンドでプロを目指すも挫折し、「安定」を求めて仏門を叩いた水原隆春。対照的な2人は、厳しい修行を通じてさまざまな現実に直面する。いまだ続く世襲制、先輩僧侶たちのイジメ、欲にまみれた夜遊び・・・・。やがて彼らはある決意を胸に行動を起こす。そして待ち受ける衝撃の結末とは。生きる意味を問いかける、熱き男たちの青春パンク小説! (角川文庫)

涅槃(ねはん)は、煩悩を断って絶対的な静寂に達した状態。仏教における理想の境地のこと。涅槃仏とは、釈迦が入滅したときの姿を像としてあらわしたものを指して言います。

英語で言うと、sleeping-buddha。寝仏、寝釈迦像、涅槃像とも呼ばれ、すべての教えを説き終えて入滅せんとする姿を顕すとされています。
・・・・・・・・・
先月、まだ寒い風の強い日のことです。80歳を超えた義母の付き添いで、妻と三人して2年前に亡くなった義父の墓参りに行きました。その帰り、(義母に頼まれて)町で一番の仏具屋に寄ったとき、店にあったちょっと変わった色をした数珠を買いました。

緑檀の珠に茶水晶が付いてあります。持ち応えがあり上品で、あまり人が持っていなさそうなのがいい。木箱に入れられ持ち帰ったそれは、(さほど高くもないのに)ずいぶんと立派に見えます。ようやく持つべきものを手に入れた、そんな気がしました。

こんな風に書くと、いかにも年寄りくさい話に思われるでしょう。でも、しょうがないのです。事実歳を取りましたし、そのとき、私は心からその数珠が欲しいと思ったのですから。

それまでは家にあるもの(おそらくは死んだ親父の黒色のいかにもありふれた数珠)を何気に使っていたのですが、持つ機会が増えるにつれ、どうもこれではいかんのではないかと。借り物(あるいは仮の物!? )を手に拝む自分は、心から手を合わせてなどいないだろうと。

せめても「仏」を前にした時ぐらいは思いを籠めて、無心で祈ろうと思うようになりました。そのささやかな手立てとして、自分が選んだ、自分のための数珠が欲しかったのです。

が、若ければこうはいきません。「人はいかに生きるべきか」であるとか、「人を救うとはどういうことか」「救うなどということが本当にできるのか」と投げかけられて、すぐにお寺や仏様のことを思い浮かべるはずもありません。

若い人には一等縁遠いものであるはずです。ましてや【涅槃仏】と言われて、それが如何なる「仏」で、何ゆえあまたの信仰の対象となっているかなど知る由もありません。ちょうどこの物語に登場する、水原隆春のように。

帯に書いてあるほど過激なところはどこにもありません。むしろ「超」が付くほどストイックな話で、隆春を含め登場する主たる4人の若者は、「生きる」という命題に真っ向から挑み、跳ね返され、悩んだ末に長く迷うことになります。

一瞬、彼らには「出口がない」かに思えます。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆早見 和真
1977年神奈川県横浜市生まれ。
國學院大學文学部中退。

作品 「ひゃくはち」「イノセント・デイズ」「東京ドーン」「6 シックス」「ぼくたちの家族」他

関連記事

『新宿鮫』(大沢在昌)_書評という名の読書感想文(その1)

『新宿鮫』(その1)大沢 在昌 光文社(カッパ・ノベルス) 1990年9月25日初版 『新宿

記事を読む

『まぐだら屋のマリア』(原田マハ)_書評という名の読書感想文

『まぐだら屋のマリア』原田 マハ 幻冬舎文庫 2014年2月10日初版 〈尽果〉バス停近くの定

記事を読む

『黒冷水』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文

『黒冷水』羽田 圭介 河出文庫 2005年11月20日初版 兄の部屋を偏執的にアサる弟と、罠(

記事を読む

『あなたの本/Your Story 新装版』(誉田哲也)_書評という名の読書感想文

『あなたの本/Your Story 新装版』誉田 哲也 中公文庫 2022年8月25日改版発行

記事を読む

『ジェントルマン』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『ジェントルマン』山田 詠美 講談社文庫 2014年7月15日第一刷 第65回 野間文芸賞受賞

記事を読む

『ブラックライダー』(東山彰良)_書評という名の読書感想文_その1

『ブラックライダー』(その1)東山 彰良 新潮文庫 2015年11月1日発行 ここは、地球の歴

記事を読む

『JR高田馬場駅戸山口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR高田馬場駅戸山口』柳 美里 河出文庫 2021年3月20日新装版初版 夫は単

記事を読む

『背高泡立草』(古川真人)_草刈りくらいはやりますよ。

『背高泡立草』古川 真人 集英社 2020年1月30日第1刷 草は刈らねばならない

記事を読む

『十九歳のジェイコブ』(中上健次)_書評という名の読書感想文

『十九歳のジェイコブ』中上 健次 角川文庫 2006年2月25日改版初版発行 中上健次という作家

記事を読む

『小説 ドラマ恐怖新聞』(原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭)_書評という名の読書感想文

『小説 ドラマ恐怖新聞』原作:つのだじろう 脚本:高山直也 シリーズ構成:乙一 ノベライズ:八坂圭

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『執着者』(櫛木理宇)_書評という名の読書感想文

『執着者』櫛木 理宇 創元推理文庫 2024年1月12日 初版 

『オーブランの少女』(深緑野分)_書評という名の読書感想文

『オーブランの少女』深緑 野分 創元推理文庫 2019年6月21日

『揺籠のアディポクル』(市川憂人)_書評という名の読書感想文

『揺籠のアディポクル』市川 憂人 講談社文庫 2024年3月15日

『海神 (わだつみ)』(染井為人)_書評という名の読書感想文

『海神 (わだつみ)』染井 為人 光文社文庫 2024年2月20日

『百年と一日』(柴崎友香)_書評という名の読書感想文

『百年と一日』柴崎 友香 ちくま文庫 2024年3月10日 第1刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑