『あの日のあなた』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『あの日のあなた』遠田 潤子 角川事務所 2017年5月18日第一刷


あの日のあなた (ハルキ文庫 と 7-1)

交通事故で唯一の肉親である父を亡くした、大学生の片瀬在。尊敬する父の「弔いごと一切不要」という遺言に戸惑いつつも、その通りにすませた。しかし、生前は立入禁止だった父の書斎で遺品整理をはじめた矢先、全く知らない女性と自分の名前が書かれた母子手帳を見つけてしまい、激しく混乱する。父は一体何を隠していたのか - 在は主を亡くした書斎で、まるで葬儀を営むかのように、父親の本当の姿と向き合っていく。単行本『お葬式』を改題。ラストは希望溢れる感動長編、待望の文庫化。(ハルキ文庫)

この人の小説を初めて読んだのは、つい先日のことです。随分と評判の『雪の鉄樹』という作品を読みました。

(ブログにも書きましたが)正直言うと、評判ほどには面白いと思えませんでした。「半端ない熱量」は確かに感じたものの、気持ちよくは読めなかったのです。文章に突っかかるような感じがあって、物語の中身にのめり込めないでいたような覚えがあります。

それと何より、私は大きな勘違いをしていました。最初この人が書いているのはミステリーかサスペンスだと思って読んでいたのが、実はそうではなかったことがわかります。

あたかもミステリー仕立てではありますが、単にそうと呼ぶにはあまりにヒューマンな、叙情に依った内容に、やや面食らってしまったような感じがしました。それならそういうつもりになって読まなくてはなりません。

ひとつ言えるのは、前よりは断然読みやすいということです。小説の発端となる部分を紹介しましょう。

主人公の名前は、片瀬(「ある」と読みます)。大学生の在は、父である和彦を心から尊敬し、また慕ってもいます。

父・和彦は大手の設計事務所に勤め、頭脳明晰、容姿端麗な人物で、すべてにおいて隙がなく、しかしことさらそれらを自慢するわけでもなく終始穏やかで、在にとって、(恥ずかしくて他人には言えないのですが)誰より自慢の父であったのです。

2年前に母が亡くなり、二人で暮らすうち、ある大雨の夜、百合の花を買いに行くといって出かけた後、今度はその父・和彦が交通事故で亡くなってしまいます。

和彦は、遺言を遺しています。長くつきあいのある弁護士が預かっていたというそれには、「葬式不要、戒名不要、弔いごと一切不要。書斎の机の中の書類は決して目を通さず、すべて処分すること」とあります。

遺品の処理をしようと父の書斎に初めて足を踏み入れた在は、そこで奇妙なものを見つけます。それは一冊の、中が白紙の母子手帳で、子どもの名前の欄には「在」と書いてあります。

しかし、よくよく見ると、そこに書いてあるのは自分とは違う生年月日と、違う母親の名前で、- これは一体どういうことなのか? 何を意味するものなのか? 在は激しく動揺し、かつ混乱します。

さらに彼の混乱を煽るのは、父・和彦が亡くなった当日の出来事です。雨の中、その少女は一人家の前に立ちつくしていたのでした。少女は、かつて父が通った高校の、今とは違う古い制服を着ています。そしてその手には百合の花を持っています。

彼女は一体何者で、何があってそこに立っていたのだろうか・・・・・

父と二人、何不自由なく暮らし、それはこの先当分続くと思われたものが、父・和彦の突然の死により、在の前には次から次へと予想もしない事態が立ち現れて来ます。彼は決意して、父親の過去について調べてみようと思い立ちます。

その結果、次第に浮かび上がってくる真実は、胸を抉るような内容です。しかし、知らなければ、彼はずっと疑心暗鬼のままでいたに違いありません。次の一歩を踏み出すために、在はとことん真実を追求しようと心に決めます。

 

この本を読んでみてください係数  80/100


あの日のあなた (ハルキ文庫 と 7-1)

◆遠田 潤子
1966年大阪府生まれ。
関西大学文学部独逸文学科卒業。

作品 「月桃夜」「アンチェルの蝶」「鳴いて血を吐く」「お葬式」「蓮の数式」「雪の鉄樹」など

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