『砂漠ダンス』(山下澄人)_書評という名の読書感想文

『砂漠ダンス』山下 澄人 河出文庫 2017年3月30日初版


砂漠ダンス (河出文庫 や)

「砂漠へ行きたいと考えたのはテレビで砂漠の様子を見たからだ」- 北国に住むわたしが飛行機に乗って到着した街は、アメリカの古くからのカジノの街。レンタカーを借りて向かった砂漠で、わたしは、子どもの頃のわたしに、既に死んだはずの父と母に、そして、砂漠行きを誘えずにいた地元のバーで働く女に出会う・・・・・。小説の自由を解き放つ表題作に、単行本未収録を含む短篇三作を併録。◎解説=保坂和志(河出文庫)

言葉は巧妙な詐欺師のようなもので、言えないことにまで名前をつけ言えたような錯覚を人に起こさせる。そして言葉を正確に使う人ほどそこを忘れていく。木を見ているうちに木の記憶を共有しだすという直観を否定する方がおかしい。

山下さんは人が陥るその錯覚と闘っている。闘うというのが大げさなら、錯覚の関節外しをしている。言葉を、文章を、山下澄人のような使い方をみんながするようになれば、ただの会話がダンスや格闘技みたいにワクワクする。(保坂和志)

実際のところ、わかった上で読んでいる(読めている)かどうかというのはさほど大した問題ではない、と考えて読むのが一番いいのだろうと。というか、わかるはずがない。わかろうとする前に、すでにこの人の意識は何歩も先を行っているのですから。

たまに追い着いたと思っても、すぐに急発進してまた別のところへ行ってしまうのは、それが行きたいと思う場所へ行くための、この人にとり欠かせないことであるとするなら、それはもう仕方がない。為すすべがないというものです。

せいぜい見失わないようにして後追いするしかないのではと思います。次第に次第に混乱し入り交じっていく展開(時空を越え、ときに後戻りします)に、実に不似合いな、至極真っ当な書き出しが私は好きです。

わたしの住んでいる部屋は街の東を流れる川沿いのアパートの三階にある。街は国の北にあり、秋には住宅街まで熊が出る。熊にはたかれて死ぬ人もたまにいる。冬はおそろしく寒く、たくさんの雪が降り、雪に音が吸収されて街はとても静かになり、ここから車で一時間ほどのところにある湖が凍り、歩いて二十分ほどにある公園の池が凍る。川は凍らない。(後略)

仕事は今はしていない。仕事をしていないと暮らしを維持出来なくなるから次をまた探しているけれど、働きたくはない。働きたいなどと考えたことはわたしはこれまで一度もない。働かなくて済むのならそうしたい。

わたしは、どこででもタカハシと名乗っています。わたしはだからどこででもタカハシで、わたしのいるところで、「タカハシさん」と誰かが呼べばそれはほぼわたしのことなのですが、しかしわたしはタカハシではありません。

タカハシと名乗る理由はとくになく、タカハシと名乗ったきっかけも覚えていません。何とくなくどこかでそう名乗り、それがそのまま今に続いています。

砂漠へ行きたいとわたしが考えたのは、テレビで砂漠の様子を見たからでした。

わたしは新聞を読まないしテレビもあまり見ない。インターネットもほとんどさわらないから遠くの出来事のほとんどを知らない。しかし知らない事で困ることはない。わたしは[わたし]が[知らない]という事を知らないのだから困らない。

こう言ったあと、話は砂漠に向かう飛行機の中へと、急展開します。

 

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砂漠ダンス (河出文庫 や)

◆山下 澄人
1966年兵庫県神戸市生まれ。
神戸市立神戸商業高等学校(現六甲アイランド高等学校)卒業。倉本聰の富良野塾二期生。

作品 「緑のさる」「鳥の会議」「ルンタ」「ギッちょん」「しんせかい」他

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