『我らが少女A』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『我らが少女A』高村 薫 毎日新聞出版 2019年7月30日発行

我らが少女A

一人の少女がいた -  動き出す時間が世界の姿を変えていく 人びとの記憶の片々が織りなす物語の結晶 シリーズ7年ぶりの最新作。合田雄一郎、痛恨の未解決事件

■主な登場人物
小野雄太 西武多摩川線多磨駅駅員 駅前には東京外語大があり、警察大学校がある。奧に武蔵野の森公園があり、調布飛行場がある。人見街道を挟んで野川公園があり、線路を跨ぐと多磨霊園がある。日々の乗降客の中に合田雄一郎がおり、浅井隆夫がいる。
佐倉真弓 主婦 旧姓栂野 殺害された栂野節子の孫。上田朱美の友人。
浅井 忍 小野雄太、上田朱美の同窓生 ADHD (注意欠陥多動性障害)疾患があり、落ち着きがなく集中力に欠ける。体調により、時に記憶が飛ぶ。ストーカーと間違われ逮捕されるが、本人はまるでうわの空。十中八九、彼の意識はオンラインゲームの中にある。

栂野節子 元中学校美術教師 (故人) 東京藝大美術学部を卒業、神奈川県立近代美術館の学芸員に就任。武蔵野美大の日本画専攻の講師だった栂野芳一と結婚。雪子を出産後現住所へ転居し、小金井市立東中学の美術教師となる。定年後、自宅に水彩画教室を開き、毎週土曜日には十人ほどの子供が通っていた。そこに朱美がおり、真弓がいた。
栂野雪子 真弓の母 (節子の娘) 現役の看護師
栂野孝一 真弓の父 (雪子の夫) 公務員 (故人)

上田朱美 小野雄太、栂野真弓、浅井忍の友人 女優を目指すも挫折。絵が得意である。
上田亜沙子 朱美の母
浅井隆夫 浅井忍の父 元警察官 息子の逮捕により警察官を辞職。多磨霊園に就職。
野上優子 小野雄太の婚約者

合田雄一郎 警察大学校教授 57歳、独身
加納裕介 東京高等裁判所判事

あらすじ
 2017年3月10日、上池袋のアパートで、一人の女が同棲中の男に殴殺された。
 女の名は、上田朱美、27歳。女優を目指していたものの芽が出ず、キャバクラ勤めなどで生活をつないでいた。
 犯人の山本晴也は、朱美のヒモ同然に暮らしていた 「一言で言えば、クズ」 のような男だが、取り調べで山本が、「以前朱美から、野川で起こった殺人事件の現場で拾ったという絵の具のチューブを見せられたことがある」 と洩らしたことが、捜査関係者に思わぬ波紋を呼ぶ。
 その殺人事件 (通称 「野川事件」) とは、約12年前の2005年12月25日の早朝に、野川公園で元美術教師の栂野節子が何者かによって撲殺された事件だが、未解決のまま迷宮入り (コールドケース) になっていた。
 栂野節子は小金井市立東中学校の元美術教師で、当時、小金井市東町4丁目に住んでいた上田朱美は、東中で節子の教え子だっただけでなく、退職後に節子が府中市多磨町2丁目の自宅で開いた水彩画教室に通い、節子の孫で同学年の栂野真弓とも親しくしていた。
 殺害現場は、節子がいつも早朝に写生をしていた野川公園・柳橋のたもとだったが、なぜ、朱美は現場にあった絵の具のチューブを持ち去ったのか。何か事件に関わりがあるのか。
 「野川事件」 の捜査責任者は合田雄一郎だったが、現在57歳の合田は、捜査の現場を離れ、折しも西武多摩川線の多磨駅にほど近い警察大学校の教授をしている。しかし、上田朱美と 「野川事件」 のかかわりを知らされた合田は、当時の捜査資料を見返しつつ、当時の捜査に何か見落としがなかったか、野川公園周辺を自らたどり直し始める・・・・・・・(”我らが少女A” を歩く 開催レポート内/あらすじと人物相関図より引用)

この小説は 「合田雄一郎シリーズ」 の中の一冊ではありますが、合田に限らず、登場人物それぞれに焦点を充て、等しくその人生を語ろうとしています。詳細かつリアルに、その者自身になり切って、つかの間顔を出す狂気さえをも。

但し、大抵の場合、他人はそれに気付きもしません。気付かないままに時が逝き、気付くと12年が経っています。あの合田が、今こんなことを思っています。

 警大で取り上げることではないが、世のなかには、目撃者がいるか、もしくはホシが自首するかしなければ誰も真相を知りようがない事件というのがある。はっきりした動機はなく、突発的に起こり、愉快犯でもなく、後にも先にもその一回きりで終わる。目撃者はなく、有力な遺留品もなく、ゲソ痕や凶器などはあっても犯人の絞り込みにはつながらず、DNA鑑定にかけられる微物や指紋なども採取できない。もちろん、どんなに悪条件が重なろうと、どこかに犯人がいる以上、それを追わないという選択肢は警察にはないが、どんなに細大漏らさず捜査を尽くしても、神でもAIでもない警察の捜査はときに限界に突き当たることはある。良いも悪いもない、世界はそんなふうに出来ているということなのだ。そしてさらに言えば、迷宮入りの原因は個々の捜査の未熟やミスにあるにしても、それもまた人間が携わる警察捜査ののり代であり、そののり代で、刑事は人間の犯罪を理解するのではないだろうか - 。
 そんなことを初めて考えたその夜の合田は、ちょっと孤独だ。(P432/本文より)

そう、孤独といえば “少女A” をはじめとするこの物語に登場する主要な人物のそれぞれは、何かしら内に秘めたものがあります。皆が、言うに言えない何かを抱えています。

この本を読んでみてください係数  85/100

我らが少女A

◆高村 薫
1953年大阪市東住吉区生まれ。
同志社高等学校から国際基督教大学(ICU)へ進学、専攻はフランス文学。

作品 「マークスの山」「レディ・ジョーカー」「冷血」「照柿」「李歐」「リヴィエラを撃て」「黄金を抱いて翔べ」「わが手に拳銃を」「晴子情歌」「空海」など多数

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