『ねこまたのおばばと物の怪たち』(香月日輪)_書評という名の読書感想文

『ねこまたのおばばと物の怪たち』香月 日輪 角川文庫 2014年12月25日初版

「人にはそれぞれ自分の物語があるんだよ」継母に子どもができて、家族とうまくいかなくなった少女・舞子。学校でもいじめられ、幽霊が出るというイラズ神社に、ひとり行かされることに。心細さのあまり亡くなった母を思いながら、暗い竹やぶを歩いていく彼女の目の前に、突然、わらぶき屋根の家が現れて - !? ねこまたのおばばと不思議な物の怪たちとの出会いが、舞子に本当の自分を教えてくれる。心温まる癒しと勇気の物語。(角川文庫より)

「お母さんは、
ひどいと思わない?
あたし、ひとりで
生きていけるわ。
もう、家には帰らない」

猫又のおばばに向かって、舞子は決然としてこう言い放ちます。対するおばばは、すべてお見通しなんだとでもいうようにして、しかしいかにも滋味深い穏やかな語り口調でもって幼い舞子にこんなふうに言い聞かせます。

「完全な人間なんて、おりゃせんよ。
人間にはそれぞれの物語があるんら。
舞子には舞子の、おっ母さんには
おっ母さんのな。
自分の物語が大事なのは、
みんな、いっしょなんよ」

最初舞子はおばばの言うことの本当の意味が分かりません。自分にとっての物語、母にとっての物語とは何のことなのか - 十分「大人」なお母さんと、まだまだ子どもの、小学5年生でしかない自分が「いっしょ」なんだと言われても、何でそうなのかが分かりません。

まるで分からないのですが、それでもおばばの言うことは「必ずや正しい」ことだと思えるだけの説得力があります。何せ猫又のおばばはイラズの森の物の怪どもの総元締めで、イラズの裏明神さまにおつかえして千年にもなろうかという大した人物(!?)なのです。
・・・・・・・・・・
舞子を産んでくれた母親は、もうこの世にはいません。今いる母親は、舞子にとって二人目の母親です。最初は少し緊張したものの、新しいお母さんとお父さんと舞子はそれなりに楽しく暮らしていました。

ところが、舞子に「弟」ができると家の様子は一変します。両親は生まれてきた弟の勇太にかかりっきりで、舞子はほったらかしになります。とりわけお母さんがそうだったのですが、それはある程度仕方がないことで、赤ちゃんだからあたり前のことなのだ - そう思い、舞子は何も言えなかったのです。

それより前に、舞子は学校で「いじめ」に遭っています。そもそも舞子は学校が好きではありません。勉強ができるわけでもないし、運動も得意ではありません。ちっとも美味しくない給食を食べ残しては、斉藤先生から怒られてばかりいます。

仲良しの友だちもいないのに、それでもいじめっ子だけはちゃんといます。吉本、早瀬、富田の三人組は、女の子のくせに、たちの悪いいじめっ子で、いつも舞子を集中的にいじめています。

彼女らは、舞子のお母ちゃんが本当のお母ちゃんじゃないと言っていじめます。お金をたかり、舞子が無いと言えば本当のお母ちゃんじゃないからおこづかいをくれないんだと言い、本当のお母ちゃんは死んだのかと、ゲラゲラ笑うのでした。

ある日、お母さんに買ってもらったふでばこがないのに気付いた舞子は、すぐに三人組の仕業だと思います。「返してよ! 」舞子は三人組に、ふるえながら抗議します。
「返してやるよ。お札(ふだ)と交換だ」吉本は、いじわるく笑ってそう言います。

決して入ってはだめだと言われているイラズ神社の裏明神へ行って、お堂に貼ってあるお札をはがしてもって来い、そしたらふでばこは返してやると言われます。- あそこはぜったい、『でる』ってよ、竹やぶの中で、昼間でも真っ暗なの! - と脅されるのです。
・・・・・・・・・・
非常にストレートな筋書ですので、わけなく読めます。その分読んでいるさ中には多少不足に感じることがあるかも知れません。しかし読み終えた後時間が経てば経つほどにじんわりと、籠められた内実を思って確かに頷いてしまう、そんな本であるように思います。

このあと舞子はいよいよイラズの森に分け入って、猫又のおばばをはじめとする色んな物の怪たちと出会うことになります。最初舞子は一々に驚いてばかりいるのですが、いつの間にやらそこがどこよりも居心地がよくなり、舞子を、違う舞子へと変えてゆくことになります。

この本を読んでみてください係数 80/100

◆香月 日輪
1963年和歌山県田辺市生まれ。本名:杉野史乃ぶ
聖ミカエル国際学校英語科卒。
2014年12月19日午前5時26分、大阪市内の病院で亡くなった。享年51歳。

作品「ワルガキ、幽霊にびびる! 」「妖怪アパートの幽雅な日常」シリーズ「ファントム・アレース」シリーズ「地獄堂霊界通信」シリーズ「大江戸妖怪かわら版」シリーズなど

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