『日曜日の人々/サンデー・ピープル』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文
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『日曜日の人々/サンデー・ピープル』(高橋弘希), 作家別(た行), 書評(な行), 高橋弘希
『日曜日の人々/サンデー・ピープル』高橋 弘希 講談社文庫 2019年10月16日第1刷
私が嗜好 (アデイクト) を覚えたのはその頃です。
手首の内側、手首の外側、太腿、内股、乳房などを、剃刀やらカッターで薄く裂くという、ごく一般的な嗜好でした。ときに私は、誰かに何かを伝える為に、身体を裂いていると感じます。だから傷口は言葉だと思うことがあります。でもいったい肉体を裂いて、誰に何を伝えたいのか、自分でもよく分かりません。
少なくとも電気コードを手にしてしまえば、私はもう、何を伝えることもできなくなります。
第39回野間文芸新人賞受賞作
高橋弘希の新作 『日曜日の人々(サンデー・ピープル)』 は非常に現代的かつ正統的な青春小説である。
あらすじをざっと説明するとこうだ。主人公の 「僕」 は恋心を抱いていた従姉である奈々が自ら命を絶った原因を探るうちに、彼女が参加していた 「レム」 と呼ばれるグループに行き着く。そこは様々な理由で傷ついた人たちが集まり、おのおのが自分の過去を告白し互いに慰め合う自助グループだった。
そして、グループの代表いわく、彼女の死の原因は 「日曜日の人々」 と呼ばれる告白ノートに書かれているのだという。僕はその 「日曜日の人々」 を読むためにレムの活動に参加するのだが、グループの参加者たちと交流していくうちに自分の目的が彼女の死の原因を探ることだけだったのかわからなくなっていき、ついには死の世界にひかれていく。
(中略)
主人公の僕はレムに所属しながらも距離を置いており、かなり懐疑的な態度を示している。つまり主人公ははなから信用などしておらず、傍観者として存在している。しかし前述したとおり、僕は徐々にレムの活動に同化していくことになる。それは一見開かれたコミュニティーのようでいて、閉鎖的で人の内面を侵食するコミュニティーでもあるのだ。(朝日新聞 DEGITALより)
その [図式]が (非常に) 現代的である、と筆者は述べています。
電気コードを持ち歩くことでいつでも死ねるという奈々の気持ち。体重の増加を極度に恐れ、食べては吐くという行為を繰り返すひなのという名の少女。レムの会の管理人・吉村は極度の不眠症で、「拒食も過食も不眠も自傷の一種だ」 というのが持論です。
彼らの思いは澱となり、否応なく内に向かって堆積されていきます。失くしてしまった何かのために、別の何かで隙間を埋める。”自傷” とは、その一手段なのでしょう。但し、時として、それは永遠に報われない傷の上塗りに過ぎない場合があります。
度重なると、塵の一つが、さらなる行為への引き金になります。
※彼らほどではないにせよ、死にたいと思うことはありました。但し、(幸いなことに) 私には (彼らほどには) 語るべき過去もなく、相も変わらず生き長らえています。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆高橋 弘希
1979年青森県十和田市生まれ。
文教大学文学部卒業。
作品 「指の骨」「朝顔の日」「スイミングスクール」「送り火」など
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