『カレーライス』(重松清)_教室で出会った重松清
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『カレーライス』(重松清), 作家別(さ行), 書評(か行), 重松清
『カレーライス』重松 清 新潮文庫 2020年7月1日発行
「おとなになっても忘れられない」 「あの場面の続きを読みたかった」
教科書や問題集でおなじみの九編の名作集教科書で読んだ物語は、あの日の学校にタイムスリップさせてくれる。給食の味が、放課後の空気が、先生や友だちの声が、よみがえってくる - 。学習教材にたびたび登場する著者の作品のなかから、「カレーライス」 「あいつの年賀状」 「もうひとつのゲルマ」 の文庫初登場三作を含む九つの短編を収録。おとなになっても決して忘れることはない、子どもたちの心とことばを育ててくれた名作集。(新潮文庫)
「千代に八千代に」 は、千代さんと八千代さんという、共に百歳に近いおばあちゃんが登場します。二人は、仲がいいのか悪いのか、よくわかりません。
もうひと組。この話には、小学校時代からの親友の、トモちゃんとスミちゃんが登場します。こちらの二人の関係も、何だかはっきりしません。
トモちゃんは小学校の卒業式の答辞につづき、中学の入学式でも新入生代表で挨拶をして、クラスでも当然のごとく代表委員に選ばれた。
でも、六月に入って、立場がちょっとヤバくなった。別の小学校から来たタカコちゃんたちのグループがトモちゃんのことを 「生意気だ」 と言いだしたのがきっかけになって、「そうそうそう、ほんとだよね」 と賛成する子がびっくりするほど多くて、クラスの女子の半数以上が参加したシカト包囲網 - みんなで無視するイジメの態勢ができあがりつつある。
さすがのトモちゃんもあせったのだろう、小学校の頃にもましてわたしに 「親友だよね」 を連発するようになり、おせっかいの度合いもどんどん深まってきて・・・・・・・三日前に、とんでもないことをやってくれた。
小学四年生の頃からずっとわたしが片思いしていたカタギリくんに、「スミちゃんのこと、どう思う? 」 と訊いた。頼んでなんかいないのに。そんなこと、ぜーったいにしてほしくなかったのに。
だって、わたしはカタギリくんのことが好きだから、好きなひとの好きな相手ぐらいわかるから。トモちゃんだって、それ、うすうす感付いているはずなのに。
トモちゃんは 「あのね、カタギリくんって、いま好きな子がいるんだって」 と、わたしのぶんまで寂しそうな顔になって言った。ほんとうは、「好きな子って誰? 」 とわたしが訊くのを待っていたはずだ。そうすれば、トモちゃんはきっと困った顔になって、申し訳なさそうな顔にもなって、でもうれしさをうっすらと頬ににじませるだろう。
わたしが黙りこくると、トモちゃんは 「元気出して」 と励ますように笑った、その瞬間 - キレた。
「あんたなんか大っ嫌い! 」
ついに言った。言えた。三日たったいまでも信じられない。きっと、トモちゃんのほうがもっと信じられないんだと思うけど。
わたしは間違ってない。
ぜったいに。
でも・・・・・・・どうして、トモちゃんから電話がかかってくるのを待ってるんだろう・・・・・・・。(本文より P30 ~ 32)
もしもあなたが大人の女性なら、思い出してみてください。この年頃だったあなたは、ひょっとすると 「トモちゃん」 だったかも知れません。
あるいは逆に 「スミちゃん」 で、勉強も普通、容姿も普通、特に目立ったところがない女の子だったのかも知れません。いつも誰かの後ろにいて、何かを主張するなどということは滅多になかったのかも知れません。
どうでしょう。二人は、果たして親友と言えるでしょうか? それとも、何か別の関係なのでしょうか・・・・・・・
千代おばあちゃんと八千代おばあちゃんの例を参考に、考えてみてください。二人はずっと仲良しだというのですが、どう見てもそんなふうには思えません。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆重松 清
1963年岡山県津山市生まれ。
早稲田大学教育学部国語国文学科卒業。
作品「定年ゴジラ」「カカシの夏休み」「ビタミンF」「十字架」「流星ワゴン」「疾走」「カシオペアの丘で」「ナイフ」「星のかけら」「また次の春へ」「ゼツメツ少年」他多数
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