『天国はまだ遠く』(瀬尾まいこ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/05
『天国はまだ遠く』(瀬尾まいこ), 作家別(さ行), 書評(た行), 瀬尾まいこ
『天国はまだ遠く』瀬尾 まいこ 新潮文庫 2022年5月25日 29刷
著者史上 「BEST of ほっこり! 」 最高に最&幸な涙をアナタも!
仕事も人間関係もうまくいかず、毎日辛くて息が詰まりそう。23歳の千鶴は、会社を辞めて死ぬつもりだった。辿り着いた山奥の民宿で、睡眠薬を飲むのだが、死に切れなかった。自殺を諦めた彼女は、民宿の田村さんの大雑把な優しさに癒されていく。大らかな村人や大自然に囲まれた充足した日々。だが、千鶴は気づいてしまう、自分の居場所がここにないことに。心にしみる清爽な旅立ちの物語。(新潮文庫)
かつて私もそうでした。ノルマ、ノルマの毎日は本当につらかった。いつになったらこの苦行から逃れられるのか - そればかりを思いながら日々を送っていました。辞めたい。辞めて、(ノルマのない) 別のところで働きたい。約25年の間に何回、何百回考えたことでしょう。
特に褒められもせず、ただ体面を保つ程度には成果を挙げて (挙げたように見せかけて)、その場その場を凌ぎながらなんとか25年、辞めずに働きました。そしてある日ある時、もういいだろう、と思いました。
48歳で転職。それまでの仕事とはまるで関係ない仕事に就きたいというと、ハローワークの窓口担当のオジさんに 「そんな無茶な! それなら何か新しい資格でも取らないと。普通みなさんはこれまでの経験を活かせる職場を探されますよ」 と、えらく不機嫌な声で言われてしまいました。
そうなんでしょうか? 耐えに耐えた今までの職場や人間関係がいやで、人生最後のチャンスにこれまで経験したことのない仕事をしてみたい、違う世界を見てみたいと考えるのは、そんなにおかしなことだったのでしょうか。でも、
千鶴は大丈夫。何といっても、まだ23歳なんですから。死ぬことはありません。本人はそれほどに思い詰めてはいますが、案外彼女は自分を見誤っています。それが証拠に、民宿の田村さんにこんなことを言われてしまいます。
「ほめてるんやで。あんたみたいな人は、長生きするわ」
そうなのだろうか。自分ではそんなことわからない。だけど、確かに今は長生きできそうな気がする。もっともっと生きていけそうな気がする。ここで過ごしたのはたった一ヶ月足らずの時間だけど、その間に自分の中の何かが溶けて、違う何かが息づいたように感じる。(本文より)
何かが変わる気がする。人生にはそんな瞬間がきっとあります。私の場合、あまりに遅きに失した感はありますが千鶴はまだまだ、これから先が本番です。長く険しい道の先には、きっと思いがけない幸運が待っていることでしょう。田村さんと出会い、そのヒントをもらい、いま彼女は確かな予感を感じています。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆瀬尾 まいこ
1974年大阪府生まれ。
大谷女子大学文学部卒業。
作品 「卵の緒」「図書館の神様」「優しい音楽」「幸福な食卓」「僕らのごはんは明日で待ってる」「戸村飯店 青春100連発」「そして、バトンは渡された」他多数
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