『金曜のバカ』(越谷オサム)_書評という名の読書感想文

『金曜のバカ』越谷 オサム 角川文庫 2012年11月25日初版


金曜のバカ (角川文庫)

 

天然女子高生と気弱なストーカーが繰り返す、週に一度の奇天烈な逢瀬の行き着く先は - ? (「金曜のバカ」)「また、星が降る夜に逢えたらいいね」- 流星雨の夜に出会った少女が残した言葉が、今胸によみがえる。(「星とミルクティー」)不器用だけど一途な思いを抱えた〈バカ〉たちが繰り広げる、愛と青春の日々。何かを好きになった時のときめきと胸の高鳴りに満ちた、ほっこりキュートな傑作短編集。(角川文庫より)

「金曜のバカ」「星とミルクティー」「この町」「僕の愉しみ 彼女のたしなみ」「ゴンとナナ」- と、まるで作風の異なる5つの作品からなる短編集です。

第一話「金曜のバカ」を読み出した時には、「えっ!? こんな軽い調子のバカ話ばかりかよ! 」と思わず読むのをやめてしまおうかと。しかし(何だか悔しくもあるのですが)読むうち段々とよくできた話だというのがわかり、結局いつの間にやら読み終えていました。

ただ、だからといって全面的に気を許したのかと言うとそういうことではありません。第二話以降を読み進めていくにつれ、最初感じた印象とは違い結構シリアスな話であったりもします。

登場するのはいずれも思春期真っ只中の若者らで、中身は至極真っ当な青春小説、その時代にありがちな錯覚や思い過ごし、気持ちばかりが先走りしてロクなことにならないあれやこれやについて激しく後悔するような話であるわけですが、

その思いを、いわば最大級の「バカさ」加減でもって描いているのが「金曜のバカ」と言えます。
・・・・・・・・・
カナは入学してまだ間もないピカピカの女子高生、本人が言うには「変質者にとっては最高級ブランド」の女子で、自転車通学で通る人通りの少ない道についても、母親からは危ないから遠回りしなさいなどと言われたりしています。

しかし、東京ならいざ知らず、カナがいるのは町で一番立派な建物が国道沿いにあるパチンコ屋というレベルの「スゲー」田舎で、人よりイタチを見かける回数の方がまだ多い田舎道にあって、犯罪者に出くわす確率などというのは格段に低いんじゃないかと思っています。

道路沿いには「たまー」に農家がある以外は、ほとんどが畑。一ヵ所、小さな笹薮の脇を通る以外は景色に変化がありません。その笹薮に差し掛かったあたりで、その日は珍しく一人の人間と遭遇します。

二十歳そこそこで、全体にひょろっとしており、なで肩。青いチェックのシャツ。「気が弱いオタク」という感じの若者が、私(カナ)の脚 - というか正確にいうならスカートの中 - を何だかびっくりしたような目で見て行き過ぎます。

振り返るとそいつは、立ち漕ぎしながらもの凄い勢いで遠ざかって行きます。カナは思います。「なに? そのラッキーって反応・・・」「だいたいスカートの下にショートパンツ穿いてるんだから、そんな必死に覗き込んだって下着なんかぜったい見え - 」

「ボウシェッ! 」- カナから思わずネイティブばりの悪態が口をついて出てしまいます。日頃あれだけ気を付けているのに、今日に限ってショートパンツを穿き忘れています。というか、穿いてないのを忘れていたのです。

考え事をしていたからけっこう脚も開いていたはず、「たぶん、モロ見られた」とカナは思います。しかも、3枚1,000円の安パンツ。いやいや、最高級のシルクショーツだろうが、幼稚園児のおぱんつだろうが、絶対見られたくないことに変わりはありません。

と、ここまでが「カナ目線」による導入部です。対して、次にあるのがオタク風に見られた「青年目線」での語りで、

彼は、僥倖にも(!?)自分好みの女子高生 - それも下着が丸見えの - とまったく人気のないはずの、普段は通ることのない未舗装の細道で出会うなどということは、偶然にしてはできすぎているんじゃないかという思いに至ります。

僕はきっと、何かに導かれてあの時間あの場所に向かったのだろう - 事実はそうではないかもしれないけれど - 全くもってその通りで、カナは通りすがりのオタク風の男にパンツを見られたことに大いに気分を害しています - そう考えたい。これは運命なんだと。

さて、このあと二人は一体どうなってゆくのか。どんなことが二人の間でなされ、互いの気持ちがどんな風に変化をするのかしないのか。その行程こそが「バカさ」満開で、満開であるが故に、ちょっと羨ましくも、悔しくもあるわけです。

 

この本を読んでみてください係数 80/100


金曜のバカ (角川文庫)

 

◆越谷 オサム
1971年東京都足立区生まれ。
学習院大学経済学部中退。

作品 「ボーナス・トラック」「階段途中のビッグ・ノイズ」「陽だまりの彼女」「空色メモリ」「せきれい荘のタマル」「いとみち」他

関連記事

『ジオラマ』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『ジオラマ』桐野 夏生 新潮エンタテインメント倶楽部 1998年11月20日発行 ジオラマ (

記事を読む

『喧嘩(すてごろ)』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『喧嘩(すてごろ)』黒川 博行 角川書店 2016年12月9日初版 喧嘩 「売られた喧嘩は買

記事を読む

『家族の言い訳』(森浩美)_書評という名の読書感想文

『家族の言い訳』森 浩美 双葉文庫 2018年12月17日36刷 家族の言い訳 (双葉文庫)

記事を読む

『死ねばいいのに』(京極夏彦)_書評という名の読書感想文

『死ねばいいのに』京極 夏彦 講談社 2010年5月15日初版 文庫版 死ねばいいのに (講談

記事を読む

『木洩れ日に泳ぐ魚』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『木洩れ日に泳ぐ魚』恩田 陸 文春文庫 2010年11月10日第一刷 木洩れ日に泳ぐ魚 (文春

記事を読む

『私の命はあなたの命より軽い』(近藤史恵)_書評という名の読書感想文

『私の命はあなたの命より軽い』近藤 史恵 講談社文庫 2017年6月15日第一刷 私の命はあな

記事を読む

『去年の冬、きみと別れ』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『去年の冬、きみと別れ』中村 文則 幻冬舎文庫 2016年4月25日初版 去年の冬、きみと別れ

記事を読む

『四月になれば彼女は』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『四月になれば彼女は』川村 元気 文春文庫 2019年7月10日第1刷 四月になれば彼女は

記事を読む

『家系図カッター』(増田セバスチャン)_書評という名の読書感想文

『家系図カッター』増田 セバスチャン 角川文庫 2016年4月25日初版 家系図カッター (角

記事を読む

『学問』(山田詠美)_書評という名の読書感想文

『学問』山田 詠美 新潮文庫 2014年3月1日発行 学問 (新潮文庫)  

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『人間タワー』(朝比奈あすか)_書評という名の読書感想文

『人間タワー』朝比奈 あすか 文春文庫 2020年11月10日第1刷

『かか』(宇佐見りん)_書評という名の読書感想文

『かか』宇佐見 りん 河出書房新社 2019年11月30日初版

『希望病棟』(垣谷美雨)_書評という名の読書感想文

『希望病棟』垣谷 美雨 小学館文庫 2020年11月11日初版

『JR上野駅公園口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR上野駅公園口』柳 美里 河出文庫 2017年2月20日初版

『裏アカ』(大石圭)_書評という名の読書感想文

『裏アカ』大石 圭 徳間文庫 2020年5月15日初刷 裏アカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑