『てらさふ』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/12
『てらさふ』(朝倉かすみ), 作家別(あ行), 書評(た行), 朝倉かすみ
『てらさふ』朝倉 かすみ 文春文庫 2016年8月10日第一刷
北海道のある町で運命的に出会った中学生「ニコ」と「弥子」。ふたりはそれぞれ「ここではないどこか」へ行くため、共同で仕事をして有名になることにした。目指すは史上最年少の芥川賞受賞! 周到かつ秘密の方法で作品は見事に候補となるが - 。女子の抱く夢と現実、そして自意識を鋭く描いた傑作長編小説。(文春文庫より)
まずもって「てらさふ」が何のことかが分からない - と思うやいなや、いっとう始めに辞書から引いた意味が書いてあります。
「てらさふ」とは - 【連語】〈動詞「て(照)らす」の未然形+反復継続の助動詞「ふ」。上代語〉自慢する。見せびらかす。- ということらしい。文庫の裏面の内容紹介と併せてみると、何となくどういう話なのかは予想が付きます。
(私がどう予想し、それが当たっていたのかいなかったのかはさておき)解説を読むとこんなことが書いてあります。
◎ 野心ある若者の行為が世間のスキャンダルを呼ぶのは、スタンダールの『赤と黒』以来の青春小説の王道。だけど、『てらさふ』は「芸術家小説」としても新しい。
- 『赤と黒』は、確か大昔に〈義務のようにして〉読んだことがあるにはありますが、読んだという記憶があるだけで内容となるとまるで忘れています。「芸術家小説」とは、具体的にはどんな小説を指して言うのでしょう?
◎『てらさふ』のふたりがやったこと - アウトプットとしての「あかるいよなか」400字詰原稿用紙換算118枚それ自体ではなく、そこにいたる方法と、その方法へと彼女たちを後押しした動機 - は、近代の文学とか芸術というものの外に着地している。
そう書いたあと、解説者の千野帽子氏はこんなふうに続けます。
この着想はなにに似ているだろうか? ボルヘスの有名な短編小説か? 奥泉光の『モーダルな事象 桑潟幸一助教授のスタイリッシュな生活』か? あるいは(これまた奇しくも田舎のライオットガールズ的少女の友情物語である)嶽本野ばらの『下妻物語・完 ヤンキーちゃんとロリータちゃんと殺人事件』だろうか?
- ・・・・・・・・・。そうは言われても、ボルヘスの短編小説はおろか奥泉光や嶽本野ばらの小説を読んだことがない私にしてみれば、どう想像したらいいかが分かりません。(ちなみに「ライオットガールズ的少女」とは、田舎のヤンキー娘くらいの意味です)
解説の凡そは至極的確で分かり易くもあるのですが、間あいだにこんなのが挟まると、一気に読んだ印象が窄んでしまうというか、そんなことも知らないで読んだ気でいるのかと言われているようで心が折れそうになります。
そりゃ、千野氏は全部を解った上で読んではいるのでしょう。だから書きもするのでしょうが、みんなみんな千野氏のような読者かというと、決してそうではないでしょう。
だって、(少し調べたら)千野帽子氏は九州大学の大学院からパリ第4大学の博士課程に学び、関西学院大学で仏文学を教える教授であるらしい。大学教授であるばかりか、俳人であり、文芸評論家である氏ほどの人であるからこそ、
私のような単に本好きで、でたらめにしか読まない人間に対しても、できれば「わかる」解説を書いて欲しいと思うのです。
「弥子は、文学が自分に存在価値や正当性を与えてくれるだろうとか、だから文学の世界は私を評価する「べき」だとか、そういういじましく小汚いことは考えない」としたあと、
◎ 小説の結末の弥子の姿は、まるでバルザック『ゴリオ爺さん』のエンディングのラスティニャックのようだ。
- って言われて、どれほどの人が「なるほど、その通り」だと頷くことができるのでしょうか。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆朝倉 かすみ
1960年北海道小樽市生まれ。
北海道武蔵女子短期大学教養学科卒業。
作品 「田村はまだか」「そんなはずない」「深夜零時に鐘が鳴る」「感応連鎖」「肝、焼ける」「ロコモーション」「夏目家順路」「恋に焦がれて吉田の上京」など
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