『夜は終わらない』上下 (星野智幸)_書評という名の読書感想文

『夜は終わらない』上下 星野 智幸 講談社文庫 2018年2月15日第一刷


夜は終わらない(上) (講談社文庫)

「婚約者が自殺した」との報せを受けた玲緒奈。しかし彼女には、次に殺す予定の別の婚約者がいた。男を惑わし、財産を奪い、殺す。玲緒奈には不思議な掟があった。夜が始まると彼女は言う。「私が夢中になれるようなお話をしてよ」 死の直前、男の語る話の内容で命の長さは決まる。命を懸けた究極の物語が始まる。〈読売文学賞受賞作〉(講談社文庫/上巻)

昔々、サーサーン朝(ササン朝ペルシャ)にシャフリヤールという王がいました。ある時、王は妻の不貞を知り、王は妻と相手の奴隷たちの首を刎ねて殺します。

女性不信となった王は、街の生娘を宮殿に呼び一夜を過ごしては、翌朝にはその首を刎ねるということを繰り返し、街からは次々と若い女性がいなくなっていったそうです。側近の大臣は困り果てたのですが、その大臣の娘・シェヘラザードが名乗り出て、これを止めるため、王の元に嫁ぎ妻となります。

明日をも知れぬ中、シェヘラザードは命がけで、毎夜、王に興味深い物語を語ります。物語が佳境に入った所で、「続きは、また明日」そして「明日はもっと面白い」と話を打ち切ります。王は、話の続きが聞きたくてシェヘラザードを殺さずに生かし続けて、ついにシェヘラザードは王の悪習を止めさせたのでした。(wikipedia「千夜一夜物語」を参照)

星野智幸による現代版「千夜一夜物語」=『夜は終わらない』は、王を玲緒奈、シェヘラザードを「シュンジュー(春秋)」から「クオン(久音)」へと立場を変え、読者を、めくるめく物語の迷宮へと誘います。湧き起こる物語の「連続」を存分に味わってください。

つまり、ぼくら四人の誰も、目的が何であるのかはわからなかった。でも目的が確かに存在していることは感じていた。日々を演じて生きることで、耐えがたかった日常が変質していく。その変化にわくわくしながら、じわじわと日常の質を変えていくこと自体が、目指すべき目的と大いに関係しているだろうということは、何となく見当がついた。
そして、この社会の誰もかもがじつはぼくらのような秘密結社員で、しかるべき時期が来るまで、本性を隠すためにうだつの上がらない勤め人や堅実な商売人や地道な百姓や漁師をしているのだとしたら、この世はまさに舞台以外の何ものでもないじゃないか、世のすべての人に自分の人生を日々演じさせることで、この世をオール舞台と化してしまいたい、この退屈を破裂させて祝祭空間に変えてしまいたい、と妄想していたんだよ。- 第四話「日常演劇(その二)」

そして、下巻。

そうだ。たいていの一体感というのは、呑み込まれている状態を指す。中毒と言ってもいいし、依存状態と言ってもいいし、洗脳されていると言ってもいい。酒や薬物と一体化したり、カネと一体化したり、性的な相手と一体化したり、会社や組織と一体化したり、国と一体化したり、対象はいろいろあるが、いずれも囚われることで解放された気分に浸るんだ。自分だけじゃなくまわりのみんなが一緒に囚われていたら、囚われていることさえ知らないでいられるから、まるで本当に解放されたかのように錯覚できる。そうまでして、楽になりたいやつは多い」- 第九話「フュージョン」

死の直前に、男たちに物語を語らせる玲緒奈。その内容によって男の命の長さは決まる。ある夜、標的にした男が語った〈物語〉は、玲緒奈を虜にしていく。登場人物がまた別の話を語り始め、時空を超えた世界にリアルが紛れ込む。複雑に交錯する物語は、やがて一点へと収束し・・・・・・・。現代文学の金字塔、遂に完結!

ジンナ ミロンガを探して  アルフォンシーナと海 星工場 日常演劇 フュージョン ヒトカフェ

悲しみのトリスタン 夜は終わらない そして、聞いたら二度と戻れない物語。物語は連鎖し、連鎖の果てに、「ヒト」は姿を消していきます。

※全体を通じて特に私が感じた点
人が自由だと思っていることの大半は、自由というイメージの紋切り型なのだ - ということ。

 

この本を読んでみてください係数  85/100


夜は終わらない(下) (講談社文庫)

◆星野 智幸
1965年アメリカ・ロサンゼルス市生まれ。
早稲田大学第一文学部文芸専修卒業。

作品 「最後の吐息」「目覚めよと人魚は歌う」「ファンタジスタ」「俺俺」他多数

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