『うさぎパン』(瀧羽麻子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2020/09/25 『うさぎパン』(瀧羽麻子), 作家別(た行), 書評(あ行), 瀧羽麻子

『うさぎパン』瀧羽 麻子 幻冬舎文庫 2011年2月10日初版


うさぎパン (幻冬舎文庫)

まずは、ざっとしたあらすじを紹介しましょう。

主人公の優子は、私立の女子中学から外部受験で男女共学の高校へ進学したばかりの女の子です。彼女は幼い頃に母を亡くし、商社マンの父は単身で海外へ赴任しています。優子は現在、義母のミドリさん(彼女は義母をミドリさんと名前で呼んでいます)と暮らしており、二人は極めて良好な関係を築いています。

そこへやって来るのが、家庭教師の美和ちゃんという女性。彼女は大学院で物理学を専攻している才女です。二人は気が合い、すぐに打ち解けて、勉強だけでなく次第にプライベートな話もするような親しい間柄になっていきます。

優子には、富田くんというちょっと気になる男子がいます。入学時の自己紹介がきっかけでお互いがパン好きだということが分かると、二人して放課後にパン屋めぐりなどをするようになります。優子には、それが楽しくて仕方ありません。

誰かに富田くんのことが言いたくてうずうずしているのですが、いくら仲がいいとは言え、さすがに義母のミドリさんに話すのはどうかと思っています。そういうことからしても、優子にとって美和ちゃんはとっておきの話し相手でした。

やがて夏休みも終わり、優子は美和ちゃんの恋人の村上さんという男性とも知り合うことになり、富田くんを含めた4人で遊園地へダブルデートに出かけたりします。些細なことで優子と富田くんは喧嘩をするのですが、それも互いが好きだからこそのことで、いつしか二人は仲直りして、今更ながらに付き合うことを告白し合ったりするのでした。

と、ここまでは言うなればお嬢様学校育ちの女子高生の、何ともほんわかした恋のお話です。読んでいると、優子や富田くんがかなり勉強のできる学生であることが分ってきますし、家庭教師の美和ちゃんは大学院生で、その恋人の村上くんは美和ちゃんが通う大学の教授になろうとしているような人物で、

おまけと言うと、優子の父親は海外で働くエリートサラリーマン。みんな優秀で、経済的にも余裕があり、下卑たところが微塵もありません。

うーん・・・・・・・、これってちょっと、「できすぎ感」 ありはしませんか!? という話。そう思うのは、ひねくれものの私だけでしょうか?

何でしたっけ? 「ダ・ヴィンチ文学賞」 なるものの大賞を受賞しているような作品なので、あからさまに貶すのもどうかとは思うのですが、〈できる人物〉と〈恵まれた環境〉の中で語られる 〈ほんわかとした恋の話〉が、そんなにいいのでしょうか?

実はこのあと、美和ちゃんと出会ったことで、優子はもう一人のある人物と 「出会ってしまう」 ことになります。それこそがこの小説の肝で、ちょっと現実的ではないような話なのですが、その出会いが優子を一回り大きく成長させるというか、大人への階段を登るきっかけとなるわけです。

それが何かを具体的に書く訳にはいきませんが、少なくとも著者の瀧羽麻子はそれで小説の色合いががらりと変わると信じて書いたのだと思います。それは分かるし、上手く書けているとも思います。

にもかかわらず、私はこの本のことを諸手を挙げて褒めたいとは思えません。手前勝手なことですが、褒めるにはいいことばかりが多すぎて、その上褒めてどうするの - と。

いつもなら、おそらく見向きもしないのに、たまたま貰ったお菓子を食べたら甘すぎて、ひどく後悔したときのような読後感。要は、いい歳をしたオッサンが手に取るべき本ではなかったということ。それに尽きます。著者には何の責任もありません。

この本を読んでみてください係数 75/100


うさぎパン (幻冬舎文庫)

◆瀧羽 麻子
1981年兵庫県芦屋市生まれ。
京都大学経済学部卒業。

作品 「株式会社ネバーラ北関東支社」「白雪堂」「左京区七夕通り東入ル」「はれのち、ブーケ」「ふたり姉妹」他

関連記事

『乙女の家』(朝倉かすみ)_書評という名の読書感想文

『乙女の家』朝倉 かすみ 新潮文庫 2017年9月1日発行 乙女の家 (新潮文庫) 内縁関係

記事を読む

『高架線』(滝口悠生)_書評という名の読書感想文

『高架線』滝口 悠生 講談社 2017年9月27日第一刷 高架線 そうやって元のところに留ま

記事を読む

『アンチェルの蝶』(遠田潤子)_書評という名の読書感想文

『アンチェルの蝶』遠田 潤子 光文社文庫 2014年1月20日初版 アンチェルの蝶 (光文社文

記事を読む

『逢魔が時に会いましょう』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『逢魔が時に会いましょう』荻原 浩 集英社文庫 2018年11月7日第2刷 逢魔が時に会いま

記事を読む

『男ともだち』(千早茜)_書評という名の読書感想文

『男ともだち』千早 茜 文春文庫 2017年3月10日第一刷 男ともだち (文春文庫) 29

記事を読む

『ポトスライムの舟』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『ポトスライムの舟』津村 記久子 講談社 2009年2月2日第一刷 ポトスライムの舟 (講談社

記事を読む

『イヤミス短篇集』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『イヤミス短篇集』真梨 幸子 講談社文庫 2016年11月15日第一刷 イヤミス短篇集 (講談

記事を読む

『文庫版 オジいサン』(京極夏彦)_なにも起きない老後。でも、それがいい。

『文庫版 オジいサン』京極 夏彦 角川文庫 2019年12月25日初版 文庫版 オジいサン

記事を読む

『Iの悲劇』(米澤穂信)_書評という名の読書感想文

『Iの悲劇』米澤 穂信 文藝春秋 2019年9月25日第1刷 Iの悲劇 序章 Iの悲劇

記事を読む

『悪意の手記』(中村文則)_書評という名の読書感想文

『悪意の手記』中村 文則 新潮文庫 2013年2月1日発行 悪意の手記 (新潮文庫) &

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『草にすわる』(白石一文)_書評という名の読書感想文

『草にすわる』白石 一文 文春文庫 2021年1月10日第1刷

『JR品川駅高輪口』(柳美里)_書評という名の読書感想文

『JR品川駅高輪口』柳 美里 河出文庫 2021年2月20日新装版初

『死者のための音楽』(山白朝子)_書評という名の読書感想文

『死者のための音楽』山白 朝子 角川文庫 2013年11月25日初版

『騙る』(黒川博行)_書評という名の読書感想文

『騙る』黒川 博行 文藝春秋 2020年12月15日第1刷 騙

『ケーキの切れない非行少年たち』(宮口幸治)_書評という名の読書感想文

『ケーキの切れない非行少年たち』宮口 幸治 新潮新書 2020年9月

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑