『うさぎパン』(瀧羽麻子)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2021/11/01
『うさぎパン』(瀧羽麻子), 作家別(た行), 書評(あ行), 瀧羽麻子
『うさぎパン』瀧羽 麻子 幻冬舎文庫 2011年2月10日初版
まずは、ざっとしたあらすじを。
主人公の優子は、私立の女子中学から外部受験で男女共学の高校へ進学したばかりの女の子です。彼女は幼い頃に母を亡くし、商社マンの父は単身で海外へ赴任しています。優子は現在、義母のミドリさん(彼女は義母をミドリさんと名前で呼んでいます)と暮らしており、二人は極めて良好な関係を築いています。
そこへやって来るのが、家庭教師の美和ちゃんという女性。彼女は大学院で物理学を専攻している才女です。二人は気が合い、すぐに打ち解けて、勉強だけでなく次第にプライベートな話もするような親しい間柄になっていきます。
優子には、富田くんというちょっと気になる男子がいます。入学時の自己紹介がきっかけでお互いがパン好きだということが分かると、二人して放課後にパン屋めぐりなどをするようになります。優子には、それが楽しくて仕方ありません。
誰かに富田くんのことが言いたくてうずうずしているのですが、いくら仲がいいとは言え、さすがに義母のミドリさんに話すのはどうかと思っています。そういうことからしても、優子にとって美和ちゃんはとっておきの話し相手でした。
やがて夏休みも終わり、優子は美和ちゃんの恋人の村上さんという男性とも知り合うことになり、富田くんを含めた4人で遊園地へダブルデートに出かけたりします。些細なことで優子と富田くんは喧嘩をするのですが、それも互いが好きだからこそのことで、いつしか二人は仲直りして、今更ながらに付き合うことを告白し合ったりするのでした。
と、ここまでは言うなればお嬢様学校育ちの女子高生の、何ともほんわかした恋のお話です。読んでいると、優子や富田くんがかなり勉強のできる学生であることが分ってきますし、家庭教師の美和ちゃんは大学院生で、その恋人の村上くんは美和ちゃんが通う大学の教授になろうとしているような人物で、
おまけに言うと、優子の父親は海外で働くエリートサラリーマン。みんな優秀で、経済的にも余裕があり、下卑たところが微塵もありません。
うーん・・・・・・・、なんだかなあ。これってちょっと、「できすぎ感」 ありはしませんか!? という話。そう思うのは、私だけでしょうか?
何でしたっけ、「ダ・ヴィンチ文学賞」 なるものの大賞を受賞しているような作品なので、あからさまに貶すのもどうかとは思うのですが、〈できる人物〉と〈恵まれた環境〉の中で語られる 〈ほんわかとした恋の話〉が、そんなにいいのでしょうか?
実はこのあと、美和ちゃんと出会ったことで、優子はもう一人のある人物と 「出会ってしまう」 ことになります。それこそがこの小説の肝で、ちょっと現実的ではないような話なのですが、その出会いが優子を一回り大きく成長させるというか、大人への階段を登るきっかけとなるわけです。
それが何かを具体的に書く訳にはいきませんが、少なくとも著者の瀧羽麻子はそれで小説の色合いががらりと変わると信じて書いたのだと思います。それは分かるし、上手く書けているとも思います。
にもかかわらず、私はこの本のことを諸手を挙げて褒めたいとは思えません。手前勝手なことですが、褒めるにはいいことばかりが多すぎて、その上褒めてどうするの - と。
いつもなら、おそらく見向きもしないのに、たまたま貰ったお菓子を食べたら甘すぎて、ひどく後悔したときのような読後感。要は、いい歳をしたオッサンが手に取るべき本ではなかったということ。それに尽きます。著者には何の責任もありません。
この本を読んでみてください係数 75/100
◆瀧羽 麻子
1981年兵庫県芦屋市生まれ。
京都大学経済学部卒業。
作品 「株式会社ネバーラ北関東支社」「白雪堂」「左京区七夕通り東入ル」「はれのち、ブーケ」「ふたり姉妹」他
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