『うさぎパン』(瀧羽麻子)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2015/08/14 『うさぎパン』(瀧羽麻子), 作家別(た行), 書評(あ行), 瀧羽麻子

『うさぎパン』瀧羽 麻子 幻冬舎文庫 2011年2月10日初版


うさぎパン (幻冬舎文庫)

 

まずは、ざっとしたあらすじを紹介することにします。

主人公の優子は、私立の女子中学から外部受験で男女共学の高校へ進学したばかりの女の子です。彼女は幼い頃に実母を亡くし、商社マンの父は単身で海外へ赴任しています。優子は現在、義母のミドリさん(彼女は義母のことをそう呼んでいます)と暮らしており、二人は極めて良好な関係を築いています。

そこへやって来るのが、家庭教師の美和ちゃんという女性。彼女は大学院で物理学を専攻している才女です。二人は気が合い、すぐに打ち解けて、勉強だけでなく次第にプライベートな話もするような親しい間柄になっていきます。

優子には、富田くんというちょっと気になる男子がいます。入学時の自己紹介がきっかけでお互いがパン好きだということが分かると、二人して放課後にパン屋めぐりなどをするようになります。優子には、それが楽しくて仕方ありません。

誰かに富田くんのことが言いたくてうずうずしているのですが、いくら仲がいいとは言え、さすがに母親であるミドリさんに話すのはどうかと思っています。そういうことからしても、美和ちゃんは優子にとって恰好の話し相手なのです。

やがて夏休みも終わり、優子は美和ちゃんの恋人の村上さんという男性とも知り合うことになり、富田くんを含めた4人で遊園地へダブルデートに出かけたりします。些細なことで優子と富田くんは喧嘩をするのですが、それも互いが好きだからこそのことで、いつしか二人は仲直りして、今更ながらに付き合うことを告白し合ったりするのです。
・・・・・・・・・・
ここまでは、言うなればお嬢様学校育ちの女子高生の、何ともほんわかした恋のお話です。読んでいると、優子や富田くんがかなり勉強のできる学生であることが分ってきますし、家庭教師の美和ちゃんは大学院生で、その恋人の村上くんは美和ちゃんが通う大学の教授になろうとしているような人物なのです。

おまけと言うと何ですが、優子の父親は海外で仕事をするようなエリートサラリーマン。みんな優秀で、経済的に余裕がある分、下卑たところが微塵もありません。

うーん・・・、これって、ちょっと「できすぎ感」がありまくりじゃございません? と感じるのは、私だけの、ただの捻くれ根性なのでしょうか。

何でしたっけ? 「ダ・ヴィンチ文学賞」なるものの大賞を受賞しているような作品なので、あからさまに貶すのもどうかと思うのですが、〈できた人物〉と〈恵まれた環境〉の中で語られる〈ほんわかとした恋の話〉が、そんなにいいのかしら?

実はこのあと、美和ちゃんと出会ったことで、優子はもう一人のある人物と「出会ってしまう」ことになります。それこそがこの小説の本質で、ちょっと現実的ではないような話なのですが、その出会いが優子を一回り大きく成長させると言うか、大人への階段を一歩登るきっかけになるわけです。

それを具体的に書く訳にはいきませんが、少なくとも著者の瀧羽麻子はそのことで小説の色合いが劇的に変わると信じて書いたと思います。気持ちは分かりますし、上手く書けていると思います。
・・・・・・・・・・
そう言っておけば、それで終わるのですが・・・、この本を買った私がどうかしていただけの話です。みなさん、幻冬舎文庫の表紙を見てみてください。何とも優し気で、メルヘンチックなイラストです。まるで、絵本の表紙のようでもあるではないですか。

何を血迷ってしまったのでしょう。いつもは見向きもしないのに、たまたま貰ったお菓子を食べたら甘すぎて、ひどく後悔したときのような読後感。

要するに、いい歳をしたオッサンが手に取るべき本ではなかったということです。瀧羽麻子さんには何の責任もないのです。

 

この本を読んでみてください係数 75/100


うさぎパン (幻冬舎文庫)

◆瀧羽 麻子
1981年兵庫県芦屋市生まれ。
京都大学経済学部卒業。

作品 「株式会社ネバーラ北関東支社」「白雪堂」「左京区七夕通り東入ル」「はれのち、ブーケ」「ふたり姉妹」他

関連記事

『あん』(ドリアン助川)_書評という名の読書感想文

『あん』ドリアン助川 ポプラ文庫 2015年4月15日第一刷 あん 線路沿いから一本路地を抜

記事を読む

『オロロ畑でつかまえて』(荻原浩)_書評という名の読書感想文

『オロロ畑でつかまえて』 荻原 浩 集英社 1998年1月10日第一刷 オロロ畑でつかまえて

記事を読む

『映画にまつわるXについて』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『映画にまつわるXについて』西川 美和 実業之日本社文庫 2015年8月15日初版 映画にまつ

記事を読む

『ifの悲劇』(浦賀和宏)_書評という名の読書感想文

『ifの悲劇』浦賀 和宏 角川文庫 2017年4月25日初版 ifの悲劇 (角川文庫) 小説

記事を読む

『送り火』(高橋弘希)_書評という名の読書感想文

『送り火』高橋 弘希 文藝春秋 2018年7月25日第一刷 送り火 春休み、東京から山間の町

記事を読む

『ウエストウイング』(津村記久子)_書評という名の読書感想文

『ウエストウイング』津村 記久子 朝日文庫 2017年8月30日第一刷 ウエストウイング (朝

記事を読む

『薄闇シルエット』(角田光代)_書評という名の読書感想文

『薄闇シルエット』角田 光代 角川文庫 2009年6月25日初版 薄闇シルエット (角川文庫)

記事を読む

『永遠の1/2 』(佐藤正午)_書評という名の読書感想文

『永遠の1/2 』佐藤 正午 小学館文庫 2016年10月11日初版 永遠の1/2 (小学館文

記事を読む

『地を這う虫』(高村薫)_書評という名の読書感想文

『地を這う虫』高村 薫 文春文庫 1999年5月10日第一刷 地を這う虫 (文春文庫)

記事を読む

『億男』(川村元気)_書評という名の読書感想文

『億男』川村 元気 文春文庫 2018年3月10日第一刷 億男 (文春文庫) 宝くじで3億円

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 * が付いている欄は必須項目です

『八月は冷たい城』(恩田陸)_書評という名の読書感想文

『八月は冷たい城』恩田 陸 講談社タイガ 2018年10月22日第一

『地下街の雨』(宮部みゆき)_書評という名の読書感想文

『地下街の雨』宮部 みゆき 集英社文庫 2018年6月6日第55刷

『らんちう』(赤松利市)_書評という名の読書感想文

『らんちう』赤松 利市 双葉社 2018年11月25日第一刷 ら

『作家刑事毒島』(中山七里)_書評という名の読書感想文

『作家刑事毒島』中山 七里 幻冬舎文庫 2018年10月10日初版

『アカガミ』(窪美澄)_書評という名の読書感想文

『アカガミ』窪 美澄 河出文庫 2018年10月20日初版 アカ

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑