『後妻業』黒川博行_書評という名の読書感想文(その1)
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最終更新日:2024/01/14
『後妻業』(黒川博行), 作家別(か行), 書評(か行), 黒川博行
『後妻業』(その1) 黒川 博行 文芸春秋 2014年8月30日第一刷
とうとう、本当にとうとうとしか言い様がないくらい長い年月をかけて黒川博行が直木賞を受賞しました。『カウント・プラン』で初めての候補になってから18年後、6回目の正直です。
過去5回の候補作と受賞作をご紹介しましょう。いや、させてください。
第116回 『カウント・プラン』
第117回 『疫病神』
第121回 『文福茶釜』
第126回 『国境』
第138回 『悪果』
そして受賞作が、本年第151回の『破門』です。おめでとうございます。やっと肩の荷が下りたことでしょう。
小説を読むのが習慣になっている方なら、必ず「出れば買う」作家がいるはずです。
大切な宝物を手に入れた気分で家に帰りますが、すぐには読み始めません。読みたいけれど読むのが勿体なくもあり、しばらく眺め置いた後、ようやくページを捲り始めるのです。
黒川博行の小説は、私にとってそういう小説です。
最初に何を読んだのかすっかり忘れるくらい前からの付き合いです。本の古さからだと当然デビュー作の『二度のお別れ』ということになりますが、それも定かではありません。
どの作品も甲乙付けがたいのですが、あえて強く印象に残っているものを挙げると『疫病神』と『国境』でしょうか。
私が黒川博行の小説を愛してやまない理由をいくつか書き上げてみます。
まず、エンターテイメント小説として極上品だという点です。文体は軽妙で簡潔、非常に読みやすい。いかにも身近にいそうな人間がモデルで、題材の調査や取材に抜かりなくリアリティー抜群。構成力は保証付。
次に、作品の出来栄えに差がなく、常に高い水準を維持している点です。毎年のように直木賞候補になるくらいで当然ですが、まず期待を裏切りません。
そして、おそらくこれが最大の魅力だと思いますが、関西弁の会話が絶品です。ボケとツッコミの名人芸です。同じ関西人には、たまりまへん。
他にも、この人やけに警察関係とヤクザに詳しかったり、大阪の歓楽街も熟知していそうないかにもな雰囲気があります。
まるでその”業界”に自分がいたようなリアルさですし、若い頃はきっとミナミや新地でよく遊んだのでしょうな黒川さん、絶対参考書なしで書いてますよ。
さらに自認する無類のギャンブル好きでもあります。『後妻業』では話のなかに麻雀の場面がさり気なく「おまけ」のよう書き込んであります。麻雀知ってる人なら笑いますよ、ほとんどギャグです。
・・・この人、元高校の美術の先生ですよ。どう思います?
こんな先生の授業なら受けてみたくなるし、こんな人が書く小説なら読んでみたくもなるじゃないですか。
黒川博行の小説には、間違っても聖人君子みたいな人物は登場しません。
一癖ありそうで、儲け話ならすぐ首を突っ込み隙あらば出し抜こうとする、大小織り交ぜての悪党ばかりが登場します。
刑事でもヤクザでも、飲み屋のオネエちゃんでもそこいらの奥さんでも、です。
『後妻業』は、まさにそんな悪党の宝庫です。扱う主題は今この時代に暗躍する「結婚詐欺」。関西色満載の「笑える犯罪小説」です。
詳細は「後妻業(その2)」で。→「後妻業(その2)」へ
この本を読んでみてください係数 90/100
◆黒川 博行
1949年愛媛県今治市生まれ。6歳の頃に大阪に移り住み、現在大阪府羽曳野市在住。
京都市立芸術大学美術学部彫刻科卒業。妻は日本画家の黒川雅子。
スーパーの社員、高校の美術教師を経て、専業作家。無類のギャンブル好き。
作品 「雨に殺せば」「切断」「アニーの冷たい朝」「暗礁」「螻蛄」「繚乱」「キャッツアイころがった」「雷神」「蜘蛛の糸」「煙霞」「落英」「離れ折紙」他多数
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