『緑の花と赤い芝生』(伊藤朱里)_書評という名の読書感想文

公開日: : 最終更新日:2024/01/05 『緑の花と赤い芝生』(伊藤朱里), 伊藤朱里, 作家別(あ行), 書評(ま行)

『緑の花と赤い芝生』伊藤 朱里 小学館文庫 2023年7月11日初版第1刷発行

利用する女VS拒絶する女」 女らしさとは? あの女 (こ) の本心、覗いてみる? きれいごとなし、忖度なし。女と女が、言葉で本気の殴り合い!そこまでして、なんのために働くん? この部屋でだれにも見つからんまま死んでも、がんばった、幸せやったって思う? あたし、あんたみたいな女って大っ嫌い

大学院を修士課程まで修了し、大手飲料メーカーに勤めて独身のままキャリア街道をひた走る今村志穂子。本音を隠してでも夫や姑と 「理想の家族」 を築いていきたい桜木杏梨。まったく異なる27年間を生きてきた二人が、一つ屋根の下で暮らすことになる。

微塵もわかり合えない二人は、うまくいかないことがあるたび苛立ちを募らせる。自分にとって本当に居心地の良い場所、素の自分でいられる場所は、どこにあるのだろう。歩みを止めてはお互いの姿を思い浮かべるようになった彼女たちは、誰のためでもなく自分のための答えに辿り着く。解説=寺地はるな (小学館文庫)

伊藤朱里の本は、これで3冊目。初めて読んだ 『きみはだれかのどうでもいい人』 は衝撃的でした。そして思いました。この人は信用できる、この人の本をもっと読んでみたいと。

『緑の花と赤い芝生』。印象的なタイトルだ。緑の芝生でもなく、赤い花でもない。はじめて目にした時ふしぎに思ったことをよく覚えている。

赤と緑は 「補色」 だ。補色とは色相環において反対側に位置する色のことで、本書には幾たびも赤と緑が印象的に示される。志穂子が手掛けた野菜ジュースのパッケージ。杏梨が勤める眼鏡店の視力検査表。志穂子と杏梨というふたりの主人公も、赤と緑のごとく正反対のタイプの女性として描かれる。読み進めるうちにふたりには似た部分や共通点があることがわかってくるのだが、周囲の人々は最後まで彼女たちを 「正反対のタイプ」 としてしか見ない。

こっちとあっち。明確に分類できるのは気持ちがいい。整理整頓の行き届いた部屋のようにすがすがしい。しかし人生の多くの物事は 「こっちを選んだからこうなった」 とか、「こっちを選ぶとこれが手に入る」 とかいうように明快にシンプルに展開していかない。選択と結果がイコールにならない。だから他人に 「あなたはもう 『そっち』 なんだからね、『こっち』 には来ないでね」 と線を引かれるとモヤモヤするし、眠れぬ夜に 「あの時 『こっち』 を選んだけど、正解だったのかな」 と不安にさいなまれる。(寺地はるなの解説より抜粋)

※ちなみに、『きみはだれかのどうでもいい人』 を読んだある書店員さんの感想が -

残酷さと慈愛の両面を捉えた
この著者の視線は鋭く強く確かである -
ゾクッとするこの読み応えを
多くの読者と分かち合いたい! (内田剛/書店員)

というもので、確かに内田氏が言う通り、「ゾクッとする」 「読み応え」 こそが伊藤朱里の真骨頂だと思います。その 「鋭く強く確かな」 感性は、きっとあなたの心を揺さぶることでしょう。 (特に若い女性におすすめです)

この本を読んでみてください係数 80/100

◆伊藤 朱里
1986年静岡県浜松市生まれ。
お茶の水女子大学文教育学部卒業。

作品 「名前も呼べない」「きみはだれかのどうでもいい人」「稽古とプラリネ」「ピンク色なんかこわくない」他

関連記事

『物語が、始まる』(川上弘美)_書評という名の読書感想文

『物語が、始まる』川上 弘美 中公文庫 2012年4月20日9刷 いつもの暮らしの

記事を読む

『ミセス・ノイズィ』(天野千尋)_書評という名の読書感想文

『ミセス・ノイズィ』天野 千尋 実業之日本社文庫 2020年12月15日初版 大ス

記事を読む

『空中ブランコ』(奥田英朗)_書評という名の読書感想文

『空中ブランコ』奥田 英朗 文芸春秋 2004年4月25日第一刷 『最悪』『邪魔』とクライム・ノ

記事を読む

『メガネと放蕩娘』(山内マリコ)_書評という名の読書感想文

『メガネと放蕩娘』山内 マリコ 文春文庫 2020年6月10日第1刷 実家の書店に

記事を読む

『末裔』(絲山秋子)_書評という名の読書感想文

『末裔』絲山 秋子 河出文庫 2023年9月20日 初版発行 家を閉め出された孤独な中年男の

記事を読む

『緑の毒』桐野夏生_書評という名の読書感想文

『緑の毒』 桐野 夏生 角川文庫 2014年9月25日初版 先日書店に行ったとき、文庫の新刊コー

記事を読む

『スモールワールズ』(一穂ミチ)_書評という名の読書感想文

『スモールワールズ』一穂 ミチ 講談社文庫 2023年10月13日 第1刷発行 2022年本

記事を読む

『ママナラナイ』(井上荒野)_書評という名の読書感想文

『ママナラナイ』井上 荒野 祥伝社文庫 2023年10月20日 初版第1刷発行 いつだって、

記事を読む

『犬』(赤松利市)_第22回大藪春彦賞受賞作

『犬』赤松 利市 徳間書店 2019年9月30日初刷 大阪でニューハーフ店 「さく

記事を読む

『シュガータイム』(小川洋子)_書評という名の読書感想文

『シュガータイム』小川 洋子 中公文庫 2022年7月30日21刷発行 三週間ほど

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。 が付いている欄は必須項目です

『きっと君は泣く』(山本文緒)_書評という名の読書感想文

『きっと君は泣く』山本 文緒 角川文庫 2026年1月25日 改版初

『彼女たちが隠したかったこと』(一木けい)_書評という名の読書感想文

『彼女たちが隠したかったこと』一木 けい 角川文庫 2026年1月2

『カンザキさん』(ピンク地底人3号)_書評という名の読書感想文

『カンザキさん』 ピンク地底人3号 集英社 2026年1月10日 第

『真珠とダイヤモンド 上下』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『真珠とダイヤモンド 上下』桐野 夏生 朝日文庫 2026年1月25

『ジェンダー・クライム』(天童荒太)_書評という名の読書感想文

『ジェンダー・クライム』天童 荒太 文春文庫 2026年2月10日

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑