『5時過ぎランチ』(羽田圭介)_書評という名の読書感想文
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『5時過ぎランチ』(羽田圭介), 作家別(は行), 書評(か行), 羽田圭介
『5時過ぎランチ』羽田 圭介 実業之日本社文庫 2021年10月15日初版第1刷
敵はヤクザ、刑事、そして国家権力 -
この仕事、ブラック過ぎて 腹が空く。
芥川賞作家・羽田圭介だから書ける限りなく危険なお仕事&犯罪小説!「新しい任務を伝えに来た」
「ある程度は休みがほしい。・・・・・・・俺でないと駄目なのか」
「手が空いている人員が他にいない」
(「内なる殺人者」 より)ガソリンスタンドのアルバイト、アレルギー持ちの殺し屋、写真週刊誌の女性記者。
日々過酷な仕事に臨む三人が遭遇した、しびれるほどの 〈時間外労働〉!今後10年は書けない作品です。
ある種の真面目さに満ちた仕事小説を、ぜひ。
- 羽田圭介 (実業之日本社)
目次
第一話 グリーンゾーン
第二話 内なる殺人者
第三話 誰が為の昼食
「グリーンゾーン」
茨城のガソリンスタンドに勤める萌衣は、働き始めて三年半のベテランアルバイト。
昼休憩も取れないくらいに休みなしの労働環境だが、ここでの仕事に責任感を持って臨んでいる。ある日、客としてやってきたヤクザの車のバンパーにどす黒い血痕を見つけるが・・・・・・・
「内なる殺人者」
リョウジは休みも取れないほどのプロの殺し屋。
小麦アレルギー持ちで、食事には気を付けて生活をしている。いつものように殺しの依頼を受けたが、殺害の一歩手前で逃したことから、逆に自らも命を狙われることに・・・・・・・
「誰が為の昼食」
写真週刊誌の女性記者として昼も夜もなく、ターゲットを追い続ける紀世美。
ある外国人犯罪グループと警察との癒着を探っていた同僚が襲撃を受けた。引き継いで調査を進めていくと、意外な黒幕が・・・・・・・
もう午後五時になる。今日もまだ、昼休憩に入れていない。萌衣の中で麻痺していた空腹感が、戻ってきた。納豆ご飯にバナナという朝食を朝九時過ぎに食べて以来、まとまった休憩もとらず肉体労働を続けていれば、エネルギーは枯渇する。
腹が減っていた。
洗剤が乾かぬよう、車の上から下へと水で流してゆく。七時間以上も前に摂取した朝食のエネルギーなどとっくに使い果たし、脂肪を燃やしながら今の萌衣は動いている。この状態があと三〇分も続けば空腹は痛みに変わるが、不思議とそれにはわずかながらの快感も伴う。自分という存在が、エネルギーを燃やしながら動くだけの単純な機関と化したかのような錯覚に陥るのだ。動くためには食べなければならず、食べるためには、動いて労働をしなければならなかった。(第一話 「グリーンゾーン」 より)
まるで職種は違うのですが、萌衣も、リョウジも、紀世美も、与えられた仕事には忠実で、たとえそれが理不尽に思えても、手を抜くことがありません。
故に、三人は絶大な信頼を得ています。仕事が複雑で困難になればなるほど、かれらは力を発揮します。時として昼食も取れない事態となり、やがてそれが “常態” となります。
それでなくても減るものが、特段に、ヤバい仕事の後は腹が減ります。
※三話のうち、特に私のお勧めが第一話 「グリーンゾーン」 です。主人公の萌衣のキャラクターもさることながら、彼女がする車両整備にかかる微に入り細に入る描写が圧巻で、これぞ羽田圭介だと。その偏執ぶりを、ぜひ味わってみてください。
この本を読んでみてください係数 85/100
◆羽田 圭介
1985年東京都生まれ。
明治大学商学部卒業。
作品 「黒冷水」「ミート・ザ・ビート」「御不浄バトル」「不思議の国の男子」「スクラップ・アンド・ビルド」「メタモルフォシス」「コンテクスト・オブ・ザ・デッド」他多数
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