『太陽の坐る場所』(辻村深月)_書評という名の読書感想文
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『太陽の坐る場所』(辻村深月), 作家別(た行), 書評(た行), 辻村深月
『太陽の坐る場所』辻村 深月 文春文庫 2011年6月10日第一刷
高校卒業から十年。元同級生たちの話題は、人気女優となったキョウコのこと。クラス会に欠席を続ける彼女を呼び出そうと、それぞれの思惑を胸に画策する男女たちだが、一人また一人と連絡を絶ってゆく。あの頃の出来事が原因なのか・・・? 教室内の悪意や痛み、十年後の葛藤、挫折そして希望を鮮やかに描く。(「BOOK」データベースより)
いや~、これは難しい。というか、ややこしい。普段通りに読み始めてしまうと、途中でふと「このまま読んでて本当にいいの? 肝心なことをすっ飛ばしてるかも・・・」みたいな気になって、前に戻ったり、気になる部分を読み返したりを何度もする羽目になります。
思った以上に仕掛けがあって、読めば読むほど互いの関係性が怪しくなってきます。分かっていれば最初からもっと気合を入れて読んだのに、などと思うのも何だか言い訳がましいし、ならもう一回読み直すかと言われたら、それはそれで正直つらくもあるのです。
・・・・・・・・・・
そこで、ちょこっと、こんなことを考えてみました。
せっかく読んだことがない本を初めて読もうとするときに、前もっていろんな解説や感想を読んでしまうと、それはやっぱり本末転倒と言うか、本来味わえたはずの感動や驚きを自ら削り取ってしまうことになりかねません。
ですから、真っ新な状態で読み始めるのが一番いいのです。ただ、そうは思うのですが、場合によってはある程度事前の情報と言うか、ここら辺りに注意して読みなさいよというアドバイスがあった方が読みやすい本もあるんじゃないか、と思うわけです。
なぜわざわざこんなことを書くかと言いますと、この『太陽の坐る場所』という小説をすでに読んだ方の多くが、読み終わった後に、「果たして私は本当にこの小説を理解したと言えるのだろうか」というような疑問や戸惑いを、少なからず持ったはずなのです。
各パートごとの話は非常に面白いのです。特に女性ならではの表の顔と裏の顔との落差と言いましょうか、親しげに話す裏に潜む遠慮のない悪意であるとか、痛烈な毒気を含んだ皮肉などは、リアルに過ぎて感嘆さえしてしまいます。
ところが、読み進むにつれて、こうだと思っていたそもそもの関係自体が何ともあやしくなってくるのです。(それこそが辻村深月が仕掛けた罠なのですが)、これがなかなかに巧妙で、何度も言いますが、読み手のこちらが書き手の意図を理解できているのかどうかが分からなくて、いささか落ち着かない気分になるのです。
もちろん、その気分を味わってこそが本来の、正しい読み方だと言えるのでしょう。しかしこの小説に限って言うと、勝手にした思い違いを、そうとは気付かずに最後まで読み切ってしまう懼れがあるのです。
そんなことになったら、つまらんと思いません? 読んだ時間がもったいないし、何より愉しむための読書なら、そもそものところが宙ぶらりんでは愉しさも半減するではないですか。ですから、そんなのはできるだけ解消してから読めばいいと思うのです。
作者の意図が理解できればずいぶん読みやすいものになりますし、余計なストレスを感じなくても済むはずです。但し、これはあくまでも私のような、少々読み解く力に難がある人用に考えた苦肉の策です。くれぐれも読解力に自信のある方はしないでください。
※ で、どうなの。何にも教えてくれないの? という人のために、最後に大きなヒントを。
名前。名前がポイントです。例えば、2人のサトミ。里見沙江子と半田聡美。2人のキョウコ。高間響子と鈴村今日子。鈴村今日子は高校時代、リンちゃんと呼ばれていたりもします。話の主軸は、人気女優になったキョウコ。わざわざカタカナで「キョウコ」なのです。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆辻村 深月
1980年山梨県笛吹市生まれ。
千葉大学教育学部卒業。
作品 「冷たい校舎の時は止まる」「凍りのくじら」「ぼくのメジャースプーン」「名前探しの放課後」「鍵のない夢を見る」「ツナグ」「ゼロ、ハチ、ゼロ、ナナ。」他多数
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