『絶唱』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文

『絶唱』湊 かなえ 新潮文庫 2019年7月1日発行

絶唱 (新潮文庫)

悲しみしかないと、思っていた。でも。死は悲しむべきものじゃない - 南の島の、その人は言った。心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために - 。 に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。そこで生まれたそれぞれの希望 のかたちとは? ”喪失” から、物語は生まれる - 。

五歳のとき双子の妹・鞠絵は死んだ。生き残ったのは姉の雪絵 - 。奪われた人生を取り戻すため、わたしは今、あの場所に向かう (「楽園」)。思い出すのはいつも、最後に見たあの人の顔、取り消せない自分の言葉、守れなかった小さな命。あの日に今も、囚われている (「約束」)。 誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿り着いた南洋の島。ここからまた、物語は動き始める。喪失と再生を描く号泣ミステリー。(新潮文庫)

[収録作品]
1.楽園
2.約束
3.太陽
4.絶唱

おそらく (書いてある半分ほどが) 実際にあったことではないかと。しかも、湊かなえ自身のことが。

全編に登場するトンガでゲストハウスを営む尚美にしても、似た女性がきっといたのでしょう。国際ボランティア隊のメンバーとしてトンガを訪れ、現地の中高一貫校で家庭科を教える松本理恵子という女性のモデルは、他ならぬ著者自身に違いありません。

とりわけリアルなのは、阪神淡路大震災が発生した直後の現地の様子です。未曽有の厄災を前に、人は動揺を抑えることができません。同じ被災者でありながら、互いが互いに、相手を慮る余裕がありません。時に心ない言葉を吐き、時に浴びせられることがあります。

経験した者しかわからない、その場にいたからこそ被った苦い記憶は、なかなかに消えることがありません。

(wikipediaによると) 湊かなえは広島県因島市の柑橘農家に2人姉妹の長女として生まれ、子供の頃から空想好きで、小中学校時代には図書室にある江戸川乱歩や赤川次郎の作品をよく読んでいたそうです。

因島市立因北小学校、因北中学校、広島県立因島高等学校を経て、武庫川女子大学家政学部被服学科へ進学したのがおそらく1991年。大学卒業後アパレルメーカーに就職して1年半勤務の後、1996年~1998年の2年間青年海外協力隊隊員としてトンガに赴任、家庭科教師として栄養指導に携わるという経験をしています。

そして、東日本大震災が発生するまではそれまでの自然災害における最悪の厄災、あの阪神淡路大震災が発生したのが1995年1月17日早朝のことでした。

つまりは、震災発生当時、兵庫県西宮市にある武庫川女子大学の学生だった著者は、間違いなくその近辺に住まいしており、間近に震災を体験したのだと思います。

不幸中の幸いだったのは、震災の中心からは “やや” 外れていたということ。多くの人が瓦礫の下敷きになり亡くなった中で、自分は助かった。命をとり留めた - 。

その事実は、思わぬ重さであとを引き、深い傷を残すことになります。

この本を読んでみてください係数  80/100

絶唱 (新潮文庫)

◆湊 かなえ
1973年広島県因島市中庄町(現・尾道市因島中庄町)生まれ。
武庫川女子大学家政学部卒業。

作品 「告白」「少女」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」「望郷」「豆の上で眠る」「リバース」「物語のおわり」「ユートピア」「ポイズンドーター・ホーリーマザー」他多数

関連記事

『カラフル』(森絵都)_書評という名の読書感想文

『カラフル』森 絵都 文春文庫 2007年9月10日第一刷 カラフル (文春文庫) 生前の罪

記事を読む

『銃とチョコレート 』(乙一)_書評という名の読書感想文

『銃とチョコレート』 乙一 講談社文庫 2016年7月15日第一刷 銃とチョコレート (講談社

記事を読む

『純喫茶』(姫野カオルコ)_書評という名の読書感想文

『純喫茶』姫野 カオルコ PHP文芸文庫 2016年3月22日第一刷 純喫茶 (PHP文芸文庫

記事を読む

『空港にて』(村上龍)_書評という名の読書感想文

『空港にて』村上 龍 文春文庫 2005年5月10日初版 空港にて (文春文庫) &nb

記事を読む

『白い衝動』(呉勝浩)_書評という名の読書感想文

『白い衝動』呉 勝浩 講談社文庫 2019年8月9日第1刷 白い衝動 (講談社文庫)

記事を読む

『出身成分』(松岡圭祐)_書評という名の読書感想文

『出身成分』松岡 圭祐 角川文庫 2022年1月25日初版 出身成分 (角川文庫) 貴

記事を読む

『殺人出産』(村田沙耶香)_書評という名の読書感想文

『殺人出産』村田 沙耶香 講談社文庫 2016年8月10日第一刷 殺人出産 (講談社文庫)

記事を読む

『猿の見る夢』(桐野夏生)_書評という名の読書感想文

『猿の見る夢』桐野 夏生 講談社 2016年8月8日第一刷 猿の見る夢 薄井正明、59歳。元

記事を読む

『地獄への近道』(逢坂剛)_書評という名の読書感想文

『地獄への近道』逢坂 剛 集英社文庫 2021年5月25日第1刷 地獄への近道 (集英社文庫

記事を読む

『その日東京駅五時二十五分発』(西川美和)_書評という名の読書感想文

『その日東京駅五時二十五分発』西川 美和 新潮文庫 2015年1月1日発行 その日東京駅五時二

記事を読む

Message

メールアドレスが公開されることはありません。

『坂の上の赤い屋根』(真梨幸子)_書評という名の読書感想文

『坂の上の赤い屋根』真梨 幸子 徳間文庫 2022年7月15日初刷

『青い鳥』(重松清)_書評という名の読書感想文

『青い鳥』重松 清 新潮文庫 2021年6月15日22刷

『神の手』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『神の手』望月 諒子 集英社文庫 2022年7月12日第8刷

『腐葉土』(望月諒子)_書評という名の読書感想文

『腐葉土』望月 諒子 集英社文庫 2022年7月12日第6刷

『死刑について』(平野啓一郎)_書評という名の読書感想文

『死刑について』平野 啓一郎 岩波書店 2022年6月16日第1刷発

→もっと見る

  • 3 にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
PAGE TOP ↑