『絶唱』(湊かなえ)_書評という名の読書感想文
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最終更新日:2024/01/09
『絶唱』(湊かなえ), 作家別(ま行), 書評(さ行), 湊かなえ
『絶唱』湊 かなえ 新潮文庫 2019年7月1日発行
悲しみしかないと、思っていた。でも。死は悲しむべきものじゃない - 南の島の、その人は言った。心を取り戻すために、約束を果たすために、逃げ出すために。忘れられないあの日のために。別れを受け止めるために - 。「死」 に打ちのめされ、自分を見失いかけていた。そんな彼女たちが秘密を抱えたまま辿りついた場所は、太平洋に浮かぶ島。そこで生まれたそれぞれの 「希望」 のかたちとは? ”喪失” から、物語は生まれる - 。
五歳のとき双子の妹・鞠絵は死んだ。生き残ったのは姉の雪絵 - 。奪われた人生を取り戻すため、わたしは今、あの場所に向かう (「楽園」)。思い出すのはいつも、最後に見たあの人の顔、取り消せない自分の言葉、守れなかった小さな命。あの日に今も、囚われている (「約束」)。 誰にも言えない秘密を抱え、四人が辿り着いた南洋の島。ここからまた、物語は動き始める。喪失と再生を描く号泣ミステリー。(新潮文庫)
[収録作品]
1.楽園
2.約束
3.太陽
4.絶唱
おそらく (書いてある半分ほどが) 実際にあったことではないかと。しかも、湊かなえ自身のことが。
全編に登場するトンガでゲストハウスを営む尚美にしても、似た女性がきっといたのでしょう。国際ボランティア隊のメンバーとしてトンガを訪れ、現地の中高一貫校で家庭科を教える松本理恵子という女性のモデルは、他ならぬ著者自身に違いありません。
とりわけリアルなのは、阪神淡路大震災が発生した直後の現地の様子です。未曽有の厄災を前に、人は動揺を抑えることができません。同じ被災者でありながら、互いが互いに、相手を慮る余裕がありません。時に心ない言葉を吐き、時に浴びせられることがあります。
経験した者しかわからない、その場にいたからこそ被った苦い記憶は、なかなかに消えることがありません。
(wikipediaによると) 湊かなえは広島県因島市の柑橘農家に2人姉妹の長女として生まれ、子供の頃から空想好きで、小中学校時代には図書室にある江戸川乱歩や赤川次郎の作品をよく読んでいたそうです。
因島市立因北小学校、因北中学校、広島県立因島高等学校を経て、武庫川女子大学家政学部被服学科へ進学したのがおそらく1991年。大学卒業後アパレルメーカーに就職して1年半勤務の後、1996年~1998年の2年間青年海外協力隊隊員としてトンガに赴任、家庭科教師として栄養指導に携わるという経験をしています。
そして、東日本大震災が発生するまではそれまでの自然災害における最悪の厄災、あの阪神淡路大震災が発生したのが1995年1月17日早朝のことでした。
つまりは、震災発生当時、兵庫県西宮市にある武庫川女子大学の学生だった著者は、間違いなくその近辺に住まいしており、間近に震災を体験したのだと思います。
不幸中の幸いだったのは、震災の中心からは “やや” 外れていたということ。多くの人が瓦礫の下敷きになり亡くなった中で、自分は助かった。命をとり留めた - 。
その事実は、思わぬ重さであとを引き、深い傷を残すことになります。
この本を読んでみてください係数 80/100
◆湊 かなえ
1973年広島県因島市中庄町(現・尾道市因島中庄町)生まれ。
武庫川女子大学家政学部卒業。
作品 「告白」「少女」「贖罪」「Nのために」「夜行観覧車」「望郷」「豆の上で眠る」「リバース」「物語のおわり」「ユートピア」「ポイズンドーター・ホーリーマザー」他多数
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